002 総誓義勇軍
眼前の焼きつく光に、思わず片腕を前に出して目を防いだ。――こいつはまるで夏の日の晴天に輝く太陽みたいだ。俺は片腕を鼻まで少し下げて、この謎の光を見た。すると、光が二つに割れて光の中から人影がこちらに向かって歩いて来た。
「伏せていろ」
人影がそう言うと、今度はその人影が6つに分裂した。俺はチカチカする目を擦って、なんとか人影を目視。光の正体は輝くドアで、付近には黒いアーマーと防弾ヘルメットを装備した6人組がミニガンの銃口をアジ・ダハーカが占拠しているビルの方角に向けている。
「撃てゐ」
6つのミニガンから放たれる大量の弾丸がアジ・ダハーカを襲った。ビルの窓ガラスが3秒もかからず全て割れ、マップから敵の表示が1つ、また1つと消えていく……。敵もスナイパーライフルを構えて反撃して来るが、6人は敵の反撃を狼狽える事も無くまるで固定砲台の用にひたすら撃ち続けている。
「我らの赴く戦場に壁など存在しない!」
6人の中で一際背の高い人物が低い声で吠えた。声から察する限りおそらく男であろう。その男は誰よりも早く弾を装填して撃ちまくっていた。
すると、アジ・ダハーカから通信が入った。俺は通信ボタンを押して「もしもし?」と言って応じる。
『あ、あ、あいつらてめぇの仲間かァ!?』
スピーカーからは敵の断末魔と物が破壊されている音が聞こえてくる。
「いーや俺の仲間では無いぜ」
『だったら何とかしてくれやァ! てめぇがいる場所なら奴に奇襲攻撃を仕掛けられるだるぉう!』
「なんでそんな事しないとならないんだ? この人達は囚われたお嬢様を助けに来た勇者様だぜ、きっと」
『んーなの分っかんねぇだるぉ! 俺様が殺されたら次はてめぇの番だるぉ!』
「お前はこのマップの創造神だと言ったな。それなら自分の力で解決出来るはずだ」
『できっ……』
俺は通話を切って、アジ・ダハーカをブラックリストに登録した。これで奴からは二度と通信が入ってこない。
そして、通信が終わった時にはミニガンの発射音も止まっていた。弾丸を撃ち尽くしたのか、と思っていたが、ビルを見ると止まった理由をすぐに理解した。
ビルの半分が崩れ、轟音と共にビルが地面に叩きつけられた。俺は耳を塞いだが、彼らは微動だにしない。
「うふん、こんなの楽勝ね」
6人組の誰かがそう言うと、俺は急いでマップを確認した。――アジ・ダハーカ共の表示が全てロストしている。
「スゴいあんたらスゴいぜ! 20人のスナイパー持ちを6人で倒すなんて」
嬉しさと安堵感で徐々に興奮してきた。
「済まんな坊主話してる時間は無ゐんだ」
ダミ声混じりの人一倍横に太っていて中年臭い喋り方のオジサンっぽい人に吐き捨てるように言われた。
「おゐムースクルス次の現場にゐくぞ」
ムースクルスと呼ばれた人が振り返った。6人の中で一番背が高くて誰よりも撃ち続けていたあの人が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「通りすがりの破壊神よ。もう安心だ」
ムースクルスは腰を屈めて、俺の頭をポンと叩いた。ちなみに通りすがりの破壊神は俺のユーザー名だ。
「どこのどなたか知らないけど、ありがとよ」
「ふっ、困った時は通信で我々を呼べ。いつでも助太刀に来てやるぞ」
そう言った後にムースクルスは再び立ち上がって、光輝くドアに入っていった。他の5人も順番に1人づつドアに入っていく。呆気に取られていると、最後の1人がドアの一歩手前まで近づいていた。
「ちょっとちょっと!」
俺は最後の1人の腰を両手で掴んで制止させた。
「……なーに?」
――完全に怪訝が悪い物言いだ。
「俺もあんた達の部隊に入れてくれよ」
俺の必死な願いにも関わらず最後の1人が「はぁ」と深い溜め息をつく。
「ごめんね坊や。仲間の補充はしてないのよ」
そう言うと俺の制止を振り払って、ドアの中に入っていった。そして光のドアは最後の1人が入ったと同時に消滅した。
「なんだよケチンボ……ってあ!」
今日は平日で学校があるという事を完全に忘れていた俺はウェアラブルコンピュータで時間を確認する。時計は8時14分を丁度回ったところだ。
「いっけねぇ、遅刻する」
ログアウトのボタンをこれでもかとタッチ。すると、マップが消えて脳内にNow lodingの文字が点滅し、気がついた時にはいつもの自分の部屋に戻っていた。アジ・ダハーカが居なくなったお陰で、今度はすんなりとログアウトして現実世界に戻って来れたようだ。




