020 護り手
聞き覚えのある声が聞こえ、俺はその声に耳を傾けた。
「儂の生徒に暴力を働くとは何事かな?」
「まさか……」
見ると、ラストラッシュの身体が小刻みに震えている。
「この惨事は君が引き起こしたと見て、間違いないかね?」
この声、回りくどい言い方……間違いなくラファエル先生だ。先生は俺達を追ってきたのだろうか。
「卓逸した技術を持つ私でも貴方を相手にするのは分が悪いですね」
「身を弁えている様で安心したよ」
「はい」
ラストラッシュは何を思ったか、宙返りをして、建築途中の建物の上に飛んだ。
「今回はあなたの顔に免じます」
「儂から逃げられると思っているのか」
「確かに貴方の力は強大だ。まともに戦っても勝てる保証は無いでしょう」
そして、ラストラッシュは続けた。
「強大な力を持つ故に、私を攻撃する事は出来ないはず」
この一言で、ラファエル先生の太い眉毛がピクッと動いた。
「……………」
「沈黙は答え。あなたが言った言葉です」
「儂はお前を」
「くどい」
吐き捨てる様に答えた。この二人は昔、何か因縁たる物があった様だ。
「1つだけ、聞きたい」
「何ですか」
「お前は誰かに雇われているのではないか?」
奴はラファエル先生の問いには答えず、背を向けて、家と家を足場にして、飛び去って行った。
「沈黙は答えだよ……ラストラッシュ」
そう言うと、ラファエル先生は、檻に閉じ込められている神代の元に近づいて、手をかざす。
「解除」
檻は一瞬にして消えた。そして、神代は俺に目掛けて、一直線上に走って来た。
「聖人大丈夫!?」
「これぐらい唾つけときゃ治るさ」
と言いつつ、実は見栄を張っている。女の子の前で弱音を吐くのは嫌いだからだ。
「今、回復魔法を……」
「待てい」
ラファエル先生が口を挟んだ。
「ここは任せろ」
「しかし」
「儂を誰だと思っている」
「は?」
「儂は魔法の先生だ!」
ラファエル先生は、俺の耳元で謎の呪文を唱えた。すると、快楽に似た感覚が身体中の血液を巡り、痛みが見る見る内に消えていく。
「すげぇ」
欲を言うならば、シジイよりも女の子に囁かれたかったと思う俺。
「これで大丈夫だ」
「ありがとう先生」
俺は足に力を入れて、立ち上がった。
「先生、あいつは一体?」
「儂の教え子だよ。闇の道に進んでしまったがな」
「そうっすか」
「さぁ、もう帰りなさい」
色々聞きたい事はあった。だけど、安心からか睡魔が襲ってきたので、先生に言われた通りにした。
「神代君」
「はい」
「今日は付いてあげなさい」
神代は頷き、俺の目の前に立って、お尻をつきだしている。
「乗って」
「嫌だ」
「何でよ」
「女に背負われたくない」
俺は歩き出した。すると、神代が俺の身体に飛び乗って来た。
「じゃあ私をおぶって」
「どうして、そうなるんだ!」
「私だって怪我してるのよ」
神代の身体は軟らかくて、あまりにも軽かった。今なら、男が女を護りたいという思いを、少しだけ解るかもしれない。




