015 harem of the cat
「キャー可愛い!」
休み時間に入ったとたん、クラス中の女の子が俺の席に集まって黄色い声を飛び交わせている。ただ、彼女達の目当ては俺ではなく、デブの使い魔だ。
「端麗な女子に囲まれて、吾輩は大興奮であーる」
「キャー喋った!」
確かに521組には容姿が整った女の子が多く、他のクラスの男子が窓に張り付いて、羨ましそうな目で女の子を観察している光景が目につく。
「お腹さわっちゃお」
「すごーい、オスなのにおっぱいがあるよ」
身体中を複数の女の子に撫でられてご機嫌なアッシュは、尻尾を立てて喜んでいる。 俺がアッシュの立場だったら、きっと別の場所が……。
アッシュはチラチラと横目で俺を見てくる。然り気無く自慢しているつもりなのだろうか。
「あんなブサ猫の何処がええんや」
中学校からの友達である獅子浪太が、魅惑のハーレム現場を目撃して嫉妬していた。ちなみに俺は、あの輪に入る勇気が無いので浪太の席の近くにいる。
「まぁまぁ猫に嫉妬するなって」
「お前もやぞ、玖雅聖人十五歳!」
浪太がいきなり自分の机をバンッと叩いた。
「どうしたんだよ、いきなり」
「とぼけるな。神代と仲良しデートで登校してきたやろ」
「あれはだな」
「なんや」
「たまたま一緒の歩幅で歩いてた」
もう一度、握り拳で机を叩く浪太。怒りからか、こめかみに血管が浮かび出ている。
「聖人、嘘はあかんで。神代と同棲生活してるんやろ?」
不意を突かれて、思わず心臓が飛び上がりそうになる。
「お前、何で知ってるんだ」
「ワイの密偵から報告があったんや」
「密偵って……」
何故だか喉が渇いてきたから学校で買ったお茶を飲む。
「年頃の女と男が二人っきりで一緒に暮らすって、中学生の妄想か!」
「確かにな」
「確かにじゃおまへんがな」
「でもお前は、熟女好きだろ?」
「だからどないしてん」
浪太は生粋の熟女好きであり、親子参観の日は誕生日より興奮すると言い切る程だ。
「俺が同い年の女と暮らしてるからって、羨ましがる意味は無いだろう」
「違うねん聖人。ワイが言いたいのは、15歳で女の子と一緒に暮らすとどうなるかや」
「どうなるかって? 別にどうもしないさ」
「正直に言ってみ、もう童貞は捧げたんやろ」
口に含んでいたお茶を吹きそうになる俺。全く予想してなかった答えを出されて、むせかえりそうだ。
「キ、キスしかやってないぞ」
「キスゥ!?」
その瞬間、クラス中が静まり返った。アッシュと戯れていた女子達も手を止めて、俺を見ている。
俺は余計な事を言ってしまったと悔やみ、身体中が恥ずかしさからか沸々と熱くなっていく。
「聖人ー?」
すると、教室のドアが開いて、神代が顔だけ覗かせて俺の名前を呼んだ。
「ちょっと屋上まで行こうよ」
この一言でクラス中が有頂天になったのは言うまでもない。周りのお調子者達がヒューヒューと口笛を吹かせ、まるでドラマの様に盛立てている。
「何よこの惨事!」
神代は眉間にシワを寄せて、ご機嫌斜めになっておられる。これ以上、彼女を苛立たせるのは得策では無いので、急いで席を立った。
「聖人待てよ、まだ話は終わってへんぞー!」
俺は神代の手を掴み、後ろから聞こえる怒号を背にして、屋上まで駆け上がった。




