014 憤激の生徒会長
「畜生、歩き疲れたぜ」
途中で迷いそうになったが、何とか学校にたどり着いて、俺達は階段を登って521組の教室に向かった。
「そこの二人組と猫一匹止まりなさい」
階段の一段目に足を置くと同時に呼ばれたので、声がする方向に振り返った。声の主は女性でオレンジ色の短い髪に目はやや大きくて、パッチリ二重。美少女というよりも、どちらかと言えば美少年寄りのボーイッシュな系統だ。
「いますぐ使い魔をカードに封印しないと、校則違反で連行してやるんだから」
と言われて、指を差された。
「お前誰だ?」
俺が威勢をはると、神代が俺の片腕を力任せに引っ張った。
「何するんだ!」
「馬鹿ね、相手は生徒会長なのよ」
「……マジか」
女の制服を見ると、確かに生徒会長と書かれた紋章が、さぞ御大層に刻まれている。
「霧登風華よ。私の目が黒いうちは、校則違反を絶対見逃したりしない」
霧登と言えば、碩大区で有名な『四大祓魔師』の名家だ。四大祓魔師は政治・権力・軍事の代名詞で、我憐家の娘が女性初の内閣総理大臣に任命されて、世間は大にぎわいしている最中だ。
おそらく彼女も家の圧力で生徒会長の座に登りつめた口だろう。
「この使い魔、カードに封印出来ないんすよ」
「嘘をつくなモヤシ」
「モヤシ……モヤシって俺の事ですかい?」
「他に誰がいるんだ」
確かに俺は女顔負けに色が白いけど、こればっかりは生まれつきだから仕方ないと諦めていたのに……。
「あんたに俺の何が解るんだー!」
俺は霧登の胸ぐらを掴んだ。霧登は動揺する事も無く、冷ややかな目で俺を睨みつけている。
「今すぐその手をどけろ。さもなくば、私の冷酷な姿を見る事になるぞ」
「上等ですよ。表に出ましょうや」
額に汗が染みて、声が怯えていた。生徒会長の圧倒的な威圧感に押され気味になっているかもしれない。
「あ、あ、あ……」
神代はアッシュを両手で抱きかかえて、一緒にブルブルと小刻みに震えている。アッシュはともかく、あのサディストな女が恐怖を顔に出しているのだから、霧登は相当な実力者なのだろう。
「何をやっとるんだ」
突如、巨大な影が覆い被さった。霧登は口をぽかんと開けて、上を見ており、俺はこの瞬間に威圧感を出していた張本人が誰なのかを理解した。
「ラファエル先生」
先生の名前を呼んで振り返った。予想通り、ラファエル先生が後ろから俺達を見下ろしており、しかもかなり機嫌が悪そうな顔だ。
「入学仕立ての新入生に鬼の角を生やすのは、生徒会長としてあるまじき行為だぞ。霧登君」
「申し訳ありません」
霧登は頭を深く下げて謝った。
「ですが、この者達は校則違反をしておりまして」
「校則違反とな?」
「はい。校内に使い魔を放し飼いしております」
ラファエル先生はグルリと半回転して、神代が抱きかかえているアッシュに目を向けた。
「ふむ、確かに校則違反だ」
「先生違うんです。この子カードの中に入ってくれなくて……」
「カードの中に入らないか、それはおかしい」
ラファエル先生は大きな手をアッシュの頭に置いた。
「シャー!」
すると、アッシュが威嚇し始めて、ラファエル先生の手に爪を立てて引っ掻き、おまけに咬みついた。
「ハッハッハッハッ、元気な猫さんだ」
怒る事はせずに、何故か高笑いしている。これが大人の余裕なのだろうか。
「特に害は無さそうだから、今日の所は儂の顔に免じて許してやろう」
「しかし先生!」
「霧登君もさっさと教室に帰りなさい。生徒会長が遅刻なぞ目も当てられん」
ラファエル先生はそう言うと、巨大な身体を揺らして階段を登って行った。嵐が過ぎ去った感覚がして、ホッと胸を撫で下ろす俺達。
「この屈辱……忘れないから」
霧登はプライドを傷つけられたのか、風船の様に頬を膨らませていた。




