010 封印不能な使い魔
神代は山札からカードを1枚引いて、アッシュのお腹の上にカードを置いた。そのまま、しばらく時間が流れたが、何も起こらない。
「やっぱり無理ね」
そう言うと、神代はカードを拾い上げて、しばらく何も描かれていない白色のカードを眺めていた。
「やっぱりって?」
俺は神代の「やっぱり」に疑問を感じて問い掛けた。
「使い魔は戦闘以外はカードの中に封印しなきゃいけないんだけど、この子はそれが出来ないのよ」
「なんで無理なんだ?」
「使い魔の強さはカードの色によって決まるの。白色が弱、緑色が普通、赤が強力、そして黒が最強ね」
「なるほど、白のカードで封印出来ないという事は、アッシュは弱以上の強さなのか」
「そういう事。もしかしたらこの子はとてつもないポテンシャルを持ってるかもね」
すると、神代がアッシュの頭を優しく撫でた。リュックサックに熊のキーホルダーをつけているぐらいだから、本当は動物が好きなんだろう。
「さぁ、行くわよ」
神代がアッシュの身体を両手で掴んだ。
「ふぎぎぎぃぃー!」
布団の上で気持ち良さそうに寝ていたアッシュを両手で持ち上げた神代は、余りの重さに苦しみの声を上げている。
「この毛玉、見た目以上に重いわね」
アッシュの巨体を右に左に揺らしながら、のっそりと近づいて来た。
「早くリュックの口開けて」
「お、おう」
言われた通りにリュックの口を開けると、神代はリュックの中にアッシュを入れた。リュックは直ぐ様パンパンに膨れ上がってしまい、これ以上は何も入らないだろう。
「ふう……これで大丈夫ね」
「吾輩はもっと寝たかったである」
アッシュはリュックから不機嫌そうな顔を覗かせて、もう一度欠伸を上げた。
「あんたがリュック背負ってよ」
神代が俺の足元にリュックを置いた。
「俺!?」
「当たり前でしょ。レディーに重たい物持たせる男が何処にいるのよ」
俺は渋々リュックを背負い、意を決して立ち上がろうとしたら、想像以上の重さに後ろへと倒れそうになった。
「おっおっおっ」
重心が崩れて、まるで歌舞伎のように片手片足を上げて踊る俺。これは決してふざけているわけでは無い。
「危ない!」
神代が後ろに倒れそうな俺を心配してか、片手を掴んで引っ張ってくれた。が、どうやら強く引っ張り過ぎた模様で、今度は前に倒れそうになり、俺は反射的に神代の両肩を掴んだ。
それと同時にお互いの唇が重なってしまった。生まれてこの方、女の子と付き合った事も無いので、これが事実上の初キスとなる。
「………………」
初めての感触に酔いしれる俺は、何も考えずに初めてのキスを味わっていた。童貞心が正常な判断を狂わせてしまったらしく、次に鉄拳が飛んで来る事なぞ想像もつかなかった。
「あ!」
我に返って神代と少し距離を空けたが、時すでに遅し。神代は顔を真っ赤にしてプルプルと身体を震わせていた。最初は恥ずかしくて顔を赤らめているのではと思ったが、どうやら違うようだ。
次の瞬間、神代が宙を舞って、まもなく俺の頭に拳骨が降り下ろされた。
「あぎゃああああああ!!」
アパート中に俺の断末魔が響いた。




