009 アフロとカード
あれからもう一悶着あったが、取り合えず和解という形になり、寝る部屋に戻って来た俺達。
「早速だけど、学校に行く前に一仕事してもらうわよ」
「仕事?」
俺は首を傾げた。
「そう、エクソシストの仕事は何かしら?」
エクソシストについては、親父から嫌というほど聞かされたから何となく察しがついた。
「まさか、今から恢飢を退治しろってか!」
布団の側にある機関車型の目覚まし時計に目を向けて時間を確認すると、まだ早朝の5時23分である。
「後2時間寝られたのに」
不満と眠気から愚痴を溢す俺。煎餅布団がこんなにも愛しく思える日が来るとは……。
「何言ってるのよ、人間が一番活動的な時間帯は朝5時なんだから理にかなってるわ」
そう言う問題では無いとツッコミを入れようと思ったが、寸前で止めた。こういうサディストな女に口答えすると、どんな罰を受ける破目になるか、想像するだけで口が酸っぱくなる。
「分かったよ、やりぁいいんだろ。やりぁよ……」
「そうこなくっちゃね。さぁ、計画を伝えるから座って」
布団の上に座ろうとしたが、俺が今までそこで寝ていた布団に使い魔がイビキをかきながら寝ていていた。
(今だけコイツと入れ替わりてぇ)
俺は仕方無く座布団を持ってきて、そこに座った。神代は反対的に可愛らしいハート型のクッションに座っている。
「最初に説明すると、エクソシストは恢飢を倒す事を生業にしているハンターね」
さらにこう続けた。
「私が所属してる王覇師団はエクソシストの総本山で、世界中に発生する恢飢現象を対処するために創られた地球防衛機関よ」
胸を張って、さぞ誇らしげに語る神代。
「知ってるよ、親父に何度自慢されたか……」
「あんたの親父は全てのエクソシストの頂点なんだから、自分の武勇伝ぐらいは自慢して当然よ」
親父とは年に数回しか会えず、普段は飲んだくれのダメ親父の姿しか見てないから、エクソシストの頂点と言われてもイマイチ想像がつかない。
「親父の話はまたの機会でいいから、さっさとその計画とやらを教えてくれ」
「はいはい、わかったわよ」
神代はそう言うと、熊のキーホルダーがついた今風のリュックサックから、カードの束と黒いモジャモジャの物体を取り出した。
「恢飢を倒す方法は2つあるわ。1つは完全に息の根を止める事と、もう1つは魂をカードに封印する事」
神代はカードの束をほどいて、一番上に置かれたカードを持ち上げた。
「カードに魂を封印するためには、ある程度弱らせないとダメ。恢飢に有効な攻撃は魔法だけど、魔法は1日や2日で覚えられる代物じゃないから、先に武器の扱いに慣れてもらうわ」
今度は黒い塊を掴んで、俺の頭にはめ込んだ。少し大きくて顔の半分が隠れてしまう。
「なんだこれ?」
「ヅラよ」
「ヅラ!?」
神代の予想外の答えに、素っ頓狂な声が出た。
「ボス……というか、あんたの親父さんから渡せと言われたのよ」
「いや、ヅラって」
ヅラを取ると、よりによってアフロのヅラで拍子抜けしてしまった。
「確かにこのままだと攻撃力は皆無ね」
「当たり前だ!」
強烈なツッコミのジャブを浴びせる。
「でも、このヅラに恢飢の魂を注入することで、武器としての能力を得られるわ」
「恢飢の魂か」
「そこで本題に戻るけど、あんたはまだ戦闘力の欠片も無いから、今回は使い魔に戦ってもらうわ」
「使い魔って……こいつか?」
俺は、布団の上でスヤスヤ寝てる猫を指差した。
「そうよ、早く起こして」
冗談だろと思いつつも、猫の身体を擦って名前を呼びかけた。
「アッシュ起きろ」
「アッシュ?」
「ああ、灰色だからアッシュだ」
アッシュは大欠伸をして、まもなく目を覚ます。
「吾輩はまだ眠いのじゃ、もっと寝させろ」
すると、神代が不適な笑みを浮かべてアッシュに近づいて行った。




