田舎転生メイドは男爵令嬢を守りたい 〜芋とお菓子と貴族社会〜
子どもの頃、芋掘りを手伝っていてひっくり返り、頭を打った。
そのときに前世を思い出した。
私、転生してる!
まあ、お決まりのブラック企業に勤めていた。多分、過労死。
気晴らしは、無課金のゲームに、Webで無料の小説と漫画。片っ端から読みあさったが、最終回は課金しないと読めないので尻切れトンボ。
異世界に転生したが、どの作品かわからない。
ヒロインかモブかもわからない。
完璧な平民なので、悪役令嬢ではないだろう。
まあ、多少不便だが田舎でスローライフ……と思ったが、農家は忙しかった。
まず、朝早い。
天候に左右されるし、美食の国の日本に比べたら食事が美味しくない。
そして、スイーツがない。
深夜にコンビニスイーツを買って帰るのが、ささやかな贅沢だった。
買う内容によっては一人暮らしとバレるから、良くないらしいけど。こっちは日が暮れたら女性は家から出られない。
平和な日本が恋しくなる瞬間だ。
娯楽がさぁ、村祭くらいしかないんだよ。
とりあえず、定番のリバーシを作るよね。
板にマス目を書いて、木片を片側だけ塗ればできるんだもん。
すぐに村中に流行るじゃん?
商人が作って町でも話題になったらしい。
あれよあれよという間に領主様のお耳に入ってしまった。
そして、なんとお嬢様のメイドにならないかとスカウトされた。
とっても可愛いお嬢様で、来年には王都の学園に通う予定だと。
斬新な発想で、助けになってやってくれと言われた。
うちは子だくさんの農家だから働きに出るのはいいんだけど、可愛い男爵令嬢っていうのがヤバイ。
お嬢様は、ピンクブロンドの髪で、ツインテールで登場した。
破滅フラグ発生!
ヒロインで、逆ハーレムで、断罪返しじゃない?
メイド兼お嬢様のお茶のお相手という、破格の条件で採用された。
メイド専門の子にやっかみを受けたけど、お嬢様からいただいたお菓子で懐柔。
それからシェフと相談して、スイーツの改良にいそしんだ。
――というと語弊があるな。
ホットケーキミックスがない世界で、乏しい知識では大したことはできなかった。
というか、コンロも電子レンジもないから、火加減が超難しい。
家ではくったくたに煮込みすぎの料理だったし。
シェフにアイディアだけ伝えて、あとは専門家が頑張ってくれたよね。
でも、ゼリー寄せを料理だけじゃなくお菓子にも使えると教えたら、大喜びされた。
果物の飾り切りはウサギリンゴしかできないけど、一度見せたら、その後アレンジを工夫していた。
それから、サツマイモ! スイートポテトには感激していましたね。
薄切りを揚げるのは、男爵のお気に入り。
奥様は、棒状にして砂糖をまぶすイモケンピがお気に入り。
薩摩なんて地名はないのにサツマイモ。やっぱり日本発の小説の世界なんだろうな。
それはさて置き。ぜひ、実家の農家のためにも、サツマイモを広めたい。
お嬢様と王都のタウンハウスにお引っ越しをした。
都会だ。人が多い。
上下水道が完備しているのに、感動した。
やっぱり、なんちゃってヨーロッパだ。
そして、案の定、お嬢様はモテた。
お話に、王子とか宰相の息子とか騎士団長の息子とか大商人の息子が出てくる。
確実に、ヤバイ。
執事と相談して、旦那様には逐一報告をしている。没落されたら大変だもの。
「王子が素敵」と目をハートにしているお嬢様。
身分差を説明しても、「平民に何がわかるの」と聞き入れてくださらない。
そりゃそうだ。
あまりしつこく言って、内緒で動かれるのも困る。
執事に「高位令嬢の家庭教師」を三日だけ呼んでもらった。
お茶の飲み方や覚えなきゃ行けない家系図と歴史を講義してもらったら、「身の程って大事ね」とすぐさま意見を翻した。
素直なお嬢様でよかった。
お嬢様は反省したけれど、男性陣のお花畑は続行中。
相手は勝手に「自分たちの婚約者にいじめられているのでは」と、ヒートアップしているらしい。
「断ってるのに『愛があれば乗り越えられる』って、馬鹿じゃないの。底なし沼のような努力を、私に押しつけないでよ。
自分たちだって、権力を笠に着てるじゃないの。芋の蔓みたいに絡みついてこないで」
と愚痴を言い出した。
いえいえ、お嬢様。芋の蔓は先の柔らかいところなら食べられるし、家畜の飼料にしたり籠を編んだり、役に立つんですよ。
迷惑な色ボケとは……げふん、げふん。失言ですね。
ついに王子が男爵家に来たいと言い出した。
「お嬢様、王子殿下たちの婚約者もご招待してください」
「え、私、彼女たちに嫌われているんだけど」
「破滅したくなかったら、頑張って招待状を渡してください。
少なくとも、こちらは浮気するつもりがないとお伝えしないと。
男爵家がお取り潰しになってもいいのですか?」
ほぼ、脅迫ですね。でも、お嬢様に頑張っていただかないと、事態の打開ができません。
こうなってくると、王子たちが迷惑な存在としか思えなくなる。
それに、お嬢さんの結婚相手を学園で捜せないじゃない。
ほんと、邪魔な奴らだ。
「自分たちはモテるって前提で動き回るんじゃない」と言ってやりたいよ、まったく。
……私は、平凡で平和な人生を全うしたいだけなんだ。
搾取されず、落ちぶれず、美味しいものを笑って食べられたら。それで充分。
だからこそ、邪魔になりそうなことは全力で回避したい。
お嬢様の破滅? 男爵家の没落?
そうなったら――実家の芋が売れなくなっちゃうだろーが。
当日は、晴天に恵まれた。
男爵家の小さな庭にテーブルと椅子を出す。
招待客だけで、攻略対象らしき男性四人、その婚約者三人いる。
王族や高位貴族の付き人がそれなりにいるので、立たれているだけで圧迫感がある。
今日は、恋愛脳になっている王子たちに「やっぱり無理」と目を覚ましてもらわなければ。
この男爵家のお庭。あなた方の家の十分の一にも満たないでしょう?
失礼にならず、楽しんでいただきつつ、現実を教えて差し上げますわ。お覚悟はよろしくて?
(脳内では、自分が悪役令嬢っぽくなってしまうわね。おほほほ)
さて、庭には落ち葉をかき集めて山を作ってある。
王子たちには、シーツをざっくり縫い合わせた割烹着をご用意した。
煌びやかな衣装を汚すわけにいきませんし、お着替えをしてもらうスペースもないですし。
前面を覆って後ろで結ぶので、体格の違いを考えなくていい優れものなのよね。
婚約者のお嬢様方には三角巾で髪を覆ってもらう。
なんというカオス。
西洋人に割烹着と三角巾ですよ。
笑ってはいけないが、腹筋が痛い。
「手袋を外していただき、バケツの水に新聞紙を浸して、サツマイモを包んでもらいます。
男爵領のおもてなしです」
私は説明しながら見本を見せる。
お貴族様はこんなことをしたことはないだろう。
嫌な顔をする人もいるし、戸惑いながらも楽しんでいる人もいる。
お嬢様に「こういうところで、為人がわかるんですよ」と耳打ちした。
サツマイモ計画をかっこ悪いと難色を示していたが、この一言でお嬢様の顔が変わった。
その気になって観察すると、いろいろなことが見えてくる。
一人でさっさとやる人。人がやるのを真似しようとする人。
逃げ腰で、遠くにいる自分の使用人を呼ぼうとする人もいた。
王子は、婚約者がモタモタしているのを驚いた目で見ている。
おおかた「いつも完璧な彼女にも、苦手なことがあったのか。かわいい」とかなんとか思っているに違いない。
淑女が一生懸命になっている様子は微笑ましいしね。
出来上がった巻物は、不格好なものもピシッと几帳面なものもある。
ここで男爵家のお坊ちゃまが登場。
「あれ、何してるのかな?」と妹であるお嬢様に声をかけ、さりげなく参加する。
ささっと美しく芋を包んでご令嬢たちの賞賛を浴びた。
こっそり練習した成果ですよ。
高位のご令嬢ではなく、その取り巻きのご令嬢たちに紹介してくれたらなと言う下心で、頑張りました。
皆様が包むのに一生懸命になっている間に、枯れ葉を燃やして灰を作っておいた。
「それを灰の中に入れていきますね」
誰のものをどの位置に埋めたか、覚えておかないと。やっぱり自分が巻いたものを食べたいはず。
あとは使用人が蒸し加減を調節していけばいいので、お任せした。
焼けるのを待つ間に、テーブルでお茶をしていただきます。ちゃんとしたお茶会はここから始まる。
その前に割烹着と三角巾を回収。
中には、割烹着に興味を持つご令嬢もいた。便利だからね。
商人の息子さんは割烹着を「持って帰りたい」と言い出した。え、どうしよう。どうしたらいい?
困って坊ちゃまを見たら、「申し訳ありませんが」と言って回収してくれた。
もしかして、これもビジネスチャンスになったりする? 割烹着が大流行したらどうしよう。そんな光景、笑ってしまうがな。
お茶会に戻りましょう。
スイートポテト、ポテトバイ、芋けんぴに大学芋。
芋づくしだが、盛り付けるお皿を厳選すれば地味にはならない。
王子の毒味が一通りチェックするまで待機。
高位貴族の方々は慣れているが、お嬢様はびっくりしていた。学園でランチをご一緒にしたそうだが、それは毒味済みだったんだろうな。
お嬢様はきっと「王族になりたい」とは、冗談でも言わなくなるだろう。
焼き芋の煙がお客様の方に行かないよう、大きめの団扇を作って用意している。
団扇担当の同僚が、時々ふわりとあおいで煙を散らしてくれた。
お茶会が進むにつれ、賑やかな雰囲気になった。
前世のバーベキューとか、一緒にやることで仲良くなる効果があったもんね。
王子や側近たちも、自分の婚約者の意外な一面を見て認識を改めているようだ。
年頃のお嬢さんの笑顔が可愛いって、当たり前だから。
あんたたちが顔を曇らせなきゃ、いつでも見られる……いや、貴族はそんなに笑わないのかな?
取りあえず、お嬢様が「ぎゃふん」されるヒドインになるのは防げたんじゃないだろうか。
更に、サツマイモの注文がたくさん来たら嬉しいな。
そうなったら、男爵領もうちの実家もほくほくだ。
焼き芋担当の使用人に様子を聞きに行こうとしたら、大商人の息子さんが私に話しかけてきた。
「男爵領はいろいろと面白いね。リバーシの発案者は、君?」
「え、いえ。発案者というわけでは……」
だって、前世の知識だし。
「その子はうちの大切な領民なんですが」
と、坊ちゃまが会話に割り込んできた。
「奴隷じゃないのだから、彼女の人生は彼女が決める。そうでしょう?」
大商人の息子さんが軽い口調で反論する。
ん? なにやらおかしな風向きになってきたかも?
きゃー、実は私がヒロインだったりして?
私、これから、どうなっちゃうの~? はわわわ。
……なんてね。
平民がヒロインになるなら、聖女とかじゃないと無理でしょ。
焼き芋はもうすぐできそうだし、お嬢様も笑っている。
攻略対象者は目が覚めて、その婚約者のご令嬢たちとも和解したように思える。
もし私がお助けキャラに転生したのなら、完璧なんじゃない?
お嬢様がこちらを見て、口パクしています。
ヤ・キ・イ・モ・ハ・ヤ・ク
やかましいわ。黙って待っとれ。




