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御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
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第二章37話『地下の秘密』

「あの日を境に風月ふうげつは大きく変わった。だが貴女側の者は皆、死者に今も縛られてる。俺が認めさせることで止まり淀んだ風は解消されるんだ」


「私がお願いされた時はまだ生きてたよ? 最後のお願いだったもん」


 尊重意思など微塵もなく、まるで何かに取り憑かれているかのように手柄に対して異常な執着を見せる御影みかげ

 彼こそ無自覚の内に生前の面影に縛られていると感じた少女だが、彼の言い分もわからなくはない。


 導く者として彼が求められるはただ一つ、すなわち先代を超えることだ。

 最短距離でその道を辿ろうとする彼の気概は常軌を逸しているものの、決して悪いことではない。


 だがまだ幼い少女がそこまで広く物事を捉えることはできず、(分かり合えない)と感じた少女は持論を展開する。


 すると意外にも屋台主が二人の会話に割って入ってくる。


 屋台主は両者の仲を取り持つ形で会話に加わり、率先的に常連客である御影みかげに話を振ると彼の気分をよくする。

 言葉巧みに会話を広げ、隙あらば少女にも話を振る屋台主は御影みかげの扱い方を熟知しているようだった。


 露零ろあはこの時、水鏡すいきょうにいた頃、心紬みつに連れて行ってもらった彼女の元仕事場でのやりとりを思い出していた。

 業種は違えど同じ接客業ということ、そして川を流れる流水のような違和感を抱かなせない話の振りに少女は通ずるものを感じていたのだ。


 その時、蕎麦屋の外では狸面を付けた男性、そして天辺てっぺんに折り鶴が乗った編み笠を目深に被る女性、二人の人物が蕎麦屋で雑談する三人の様子を静かに観察していた。

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そして場面は移り現在、水鏡すいきょうでは露零ろあの部屋を借りて伽耶かやとシエナが花札を嗜んでいた。

 二人のそばには掃除道具らしきものが置かれていて、掃除終りのほんの息抜きなのだろう。

 無断で部屋を使っていては怒られそうなものだが間借りしている少女は現在、長期間國を出ている。


「花札なんか懐かしいなぁ。これ小屋から引っ張ってきたもんなんやろ?」


「――らしいですね。そういえば今って点数いくつでしたっけ?」


「なんや自分、覚えてないん?」


「同じ、ですよね? 今が十一月ですから次が最後ですね」


 現在の点数は同点、最終ターンはシエナ先行でスタートする。

 互いに手札を交互に出していき、先に役を揃えたのは伽耶かやだった。


 しかし彼女は役が揃うとシエナも驚くある宣言をした。

 彼女は揃った三光を公開した上で「こいこい」と宣言すると揃った役を引っ込める。


 同点で迎えた最終ターン。

 役が揃った時点であがればそのまま勝利でハイ終了となったのに、なぜわざわざ彼女はそんな宣言をしたのだろうか。

 彼女が揃えた役は三光で、決して悪い手とは言えない。

 そもそも二人は同じ点数なのだから揃えた者勝ちみたいなもので、役に良いも悪いもないのだが。


 宣言によってその後も続けた結果、次に役を揃えたのは伽耶かや


 ……ではなくシエナだった。

 彼女は手堅い役で宣言すると役をそのまま公開して茶番にも似た最終ターンを終わらせる。

 手札を捨てた二人は『菊に盃』の持ち札を一番上にして机に置くと後片付けを敗者に任せ、彼女は一足先に部屋を後にする。


「――ギャンブル気質は相変わらずですね。それで足元を掬われれば元も子もないですよ」


 そして場面は再び風月ふうげつへと戻り、情報共有+雑談を終えた露零ろあ夜霧よぎりに戻ってきていた。

 戻ってくるなり今度はミストラにも大まかなやりとりを報告し、少女は彼にあることを尋ねる。


「ねぇ、ミストラさんは次の戦いがいつになるか知ってるの?」


「――そうだね、東風こちの封書には宝玉の場所が知られたって書いていたからね。ついてきてくれるかな?」


 そう言われ、彼は少女を地下へと案内する。

 地下に着くとミストラが指差す一番高く積み上げられた石積みの上に二人は楽々飛び上り、そこで少女はある物を目にする。


「……これ、あおぎさんが持ってたやつだよね」


 そこに置かれていたのは以前、あおぎが持っていたふさふさとした扇子のようなもので、その横には小さな墓標が建てられていた。


 彼の亡骸をここに埋葬したのだろうか。

 

 するとミストラは墓標の裏に手を伸ばし、開閉仕掛けの施された墓標の中から敵の狙いの一つである『宝玉』を手に取ると少女に見せる。


「これがここにあることが知られた以上、敵は僕のコンディションを意識するだろうね」


「それって……」


「そう、君が言っていた宝玉がこれだよ。話が脱線したね、襲撃されるのは次の新月だと僕は見ているんだ」

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