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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章49話『目的』

「五つのうち、二つは既に片付いている。残り三つを片した時、風月(ふうげつ)は未曽有の脅威を退けるだろうと預言書(ゆいごんしょ)には記されていた」


・「惹起天災(じゃっきてんさい)

・「外来迷い子」

・『概念殺し』

・「地の獄第一人者」

・『五大流行り病』


 この五つが彼の言う、前任者の遺品である預言書(よげんしょ)五冊の表紙にそれぞれ記されたタイトルだ。

 着色された仮死状態の微生物、そしてその微生物の主食である()()()()()を液体に混ぜ、それを筆ペンで文字状に塗布したことで一種のタイムカプセルのようなことを実現してみせた前任者、(あおぎ)

 この世界、有為(うい)では先進國にあたる國を統治する彼が編み出した画期的な部類に入るそれは通称、カプセル本と呼称され、唐突の出来事にぽかん状態な里子二人に御影(みかげ)はより嚙み砕いた言い回しで、さらに一歩踏み込んだ内容を再度改めて説明する。


「うち一つ、()()()()()()()(じき)に地上に降りてくる。惹起天災(じゃっきてんさい)はそいつによって引き起こされるんだ」


「そうなんだ。それで三つ目は何なの?」


「……それは今気にすることじゃない。この後、俺は未開(みかい)の戻り滅者(めつしゃ)を上手く言い包める必要がある。時間が惜しい」


 事前の打ち合わせ通り、時間が押しているとアドリブをかますことで何とかこの場を乗り切った御影(みかげ)はそのまま錠剤を取り出すと一気に飲み込む。

 その量は実に二十数粒、馴染みがない露零(ろあ)はともかく、境遇から嫌でもその行動の意味が理解できてしまった間微(まほろ)は過剰摂取ではないかと初めて対面したお客の身を案じて冷や汗を浮かべる。


「…………」


「あの子は大丈夫よぉ、心配しなくていいわぁ。努力が嫌いで才能が好きなのも間微(あなた)と同じで相当拗らせてるわよねぇ?」


(俺と、同じ……?)


 用量を無視した薬物過剰摂取だが、御影(みかげ)の境遇を知っている二人の里親にしてBARのオーナーはさり気なくVIP客に対するフォローを入れるとそれとなく彼の自己嫌悪が酷いという共通点を匂わせる。

 同時に大々的に知れ渡ってはいない知名度の低いマイノリティ界隈、故に馴染みの薄い意中の露零(ろあ)に気付かれないよう遠回しに伝えると間微(まほろ)の心はほんの僅かに救われる。


 だが簡易的に里子のメンタルケアを行った同タイミング。

 一方の男性婦人(さと)はというと今は亡き(ぜん)碧爛然(へきらんぜん)、彼の思惑通りの展開にはさせないと里子を第一に考えていた。

 しかしその思いを決して口外することはなく、自身の心積もりに留めた男性婦人(かのじょ)は我が子の青天井な可能性にこれまで築き上げてきた全てを掛けるつもりで今世一代の大勝負に出る覚悟を胸中で密かに固めていた。


「――――確か右目で今を、左目で未来を見てたのよねぇ?」


「ああ、だがそれだけで最強と謳われたはずがない。あらゆる者を味方に付け鼓舞するカリスマ性とも言える追い風、先進國をのトップに君臨するに相応しい知略、統率力とどこをとっても非の打ち所がないのが(あおぎ)という男だ」


 並々ならないコンプレックスを抱いているがそれとこれとは話が別。

 認めているからこそ持ち上げる御影(みかげ)はハッと我に返ると人間誰しも()()()()理論を展開して今言ったことは本心ではないと主張する。

 しかしその言い分を加味して差し引いたとしても前任者に対する尊敬の念が伺えてしまい、ますます(さと)は内なる闘志を燃やし始める。

 その勢いのままアルコール濃度の強い酒を取りに行き、グイっと一口で飲み干すとほろ酔い感を漂わせることで少し責めた内容の質問を投げかける。


「ねぇ、私と(あおぎ)がもし対立したらどっちが勝つと思うのかしらぁ? 忖度なしで教えてちょうだい」


「…………は?」


 あれだけ前任者に対する思いの丈をぶちまけたのだ。

 それも(けな)すのではなく、全て事実とは言え過剰なまでに持ち上げる形で。

 市販薬全頼りではあるが無理矢理テンションを()に持ってきた彼にとってはまさに耳を疑う発言だったに違いない。

 故に素の返しになってしまい、その後も彼が結果予想を答えることはなくそのまま店を後にする。


「不快だ帰る。そうだ露零(ろあ)南風(はえ)がお前に会いたがっていた」


「そうなの?? 南風(はえ)さん元気してる?」


「スランプに頭を悩ませていたが息災だ。間微(そっち)のには俺が直々に蕎麦屋巡りの醍醐味を教えてやる、いつでも風月(ふうげつ)に来るといい」


 最後に自國を観光スポットとして激推ししてからBARを去った碧爛然(へきらんぜん)

 その様子に罪悪感にも似た感情を抱いた(さと)は不本意ながら、愛しの我が子を本心を隠すためのカモフラージュに使ったことに言葉にこそしないが心の底から懺悔する。

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