第五章43話『真実』
二人の里親である男性婦人は里子のことを出生からなにまで全て把握していた。
それは一重に長らくの職業柄身に付いた男性婦人の巧みな話術と手腕とも言え、間微に関しては全て本人の口から聞き出すとその際に里は何があっても必ず味方になると前置きしていた。
故に今回も自ら進んで緩衝材の役割を果たすことで商売道具でもある信用の質を一気に引き上げることに成功する。
そんな彼女の物言いに打ち合わせ済みなのか、とその奥行きを想像した露零だったが声色からもわかる間微の素の返答に安心感すら覚え、身内での探り合いは無粋だと考えるやそれ以上余計なことは考えずさっきの質問に返答する。
「里さんは里さんだよ? 間微君も両方大切な家族だもんね♪」
「……嘘型でも?」
「もう、はっきり言わなきゃ伝わらないなら沢山大好きって言ってあげる」
里親に対して、強がっては見せたが腹の内を明かすことに抵抗がない人間などほとんどいないだろう。
それもある程度関係が構築されているのなら尚更で、誰に言わされるでもなく事前に言葉で包容力を示されたのは彼にとってどれだけ救いだっただろう。
受け入れ態勢を前もって示されたことで心置きなくカミングアウトすることができた間微は性自認、本名とを順に話すと最後に刺繍内容から実母に会ったのだろうことについて触れ、軽く自身の身の上話をし始める。
「俺は里さんと同種の中性で本名は夢、母親は俺を夢を叶えるための身代り人形として生み出したんだ」
「もう一つ言っておくと滅者の生みの親もこの子と同じなのよぉ」
(えっ? そうだったの??!)
ここにきて新たな情報が開示されたことに露零は自身の見解を今一度改める。
どの方面にも太いパイプを持っている男性婦人のことだ。
当然、天爛然と喪腐が協力関係にあったことを知っていたのだろう。
なんなら両者をつなぐ架け橋のような存在だった可能性すら全然あり得る。
と、一度思考が滅者の方へ向けられるとその延長線で滅者と交わした約束を思い出す。
二つの目的、その優先順位など全くの別ベクトルであり比べようもないことだが喪腐と交わした一つの約束、その内容を告げた露零は別件で身内に迷惑はかけないと言葉を残すと長居せずにBARを出ようと扉にそっと手を掛ける。
するとその時、間微によって一つの小物ケースが投げ渡され、音に反応した少女が振り返ってキャッチすると「まだ教えてもらってないからな」と過去に自身と交わした約束をチラつかせる。
「ましろんのことだよね? ゆっくり話せる時間、必ず作るからもう少しだけ待ってて」
「せっかくだから行く前に付けてみてくれないかしらぁ?」
状況が間微をそうさせただけでそれ以上のことを彼は言えず、そのことを察した里はごく自然な流れで彼の思っていたことを代弁すると露零はプレゼント用なのだろう、質素なデザインではあるがどこか高級感のある質感の小物ケースを好奇心のままに丁寧に開く。
「わぁ~! 雪の結晶の耳飾りだ!! 間微君が選んでくれたの?」
ーーこくり。
「好きなものだから二倍嬉しいありがと! 毎日大切に使うね♪」
この時、間微は他二人が耳飾りを秘密裏に購入していたことでお返しの準備することが決定し、危険を承知で戦地に赴いてまでサプライズ相手である露零のことをリサーチしたいつかの日のことを思い返していた。
当時はあくまでリサーチがメインとはいえ、事実だけを見れば軽傷を負った間微だがそれも思えば過去のこと。
これだけ喜んでくれたならプラマイプラスで(悪くない)と感じた彼は雪の結晶の耳飾りを身に着けた感想を聞こうとした露零に不意に声を掛けられ、声に反応して顔をあげるとそこには初雪を想起させる美しい女性の姿があった。
「どう? 似合ってる?」
「――――綺麗、とてもよく似合ってる」
「だよね! 素敵なプレゼントをありがとう! それじゃあ行ってくるね」
「……」
一度腹を割って話したこともあり発した言葉に嘘偽りは一つもない。
しかし感じた妄想は全て彼の錯覚でしかなかった。
実際に目の前にいるのは女性と呼ぶにはまだ幼い少女だ。
だが、刹那的にではあるが間微の目には一人の女性として確かに映り、彼は露零との別れを内心寂しがる。
しかしそんな彼の気も知らずBARを後にした少女は耳飾りを揺らしながら白い息を吐くとほんの僅かに冷力が強まっていることを実感し、絶好のサプライズタイミングだったと胸中で間微に感謝の意を伝える。
(間微君ありがと。必ず帰ってくるから――――)




