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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章42話『偽り』

「はぁ…私が教え子の決めた進路を邪魔立てすると思ったの? でも一つ思ったのはそうね、自分を貶める事実(やりかた)で注目を集めるのは感心しないわ」


「やっぱバレてた?」


「それより話を戻しましょうか。横やりが入ったけど結果的に私たちの本気度を知ってもらえたんじゃないかしら?」


「うん。出娜(いずな)さんの…私達のために戦ってくれたの、ものすっごく伝わってきたよ。私からも一つだけいい?」


「……ん? 何かしら?」


 味方に関するデリケートな話題ゆえに身内には聞けない以上、露零(ろあ)は今この瞬間しか聞くチャンスがないと考えていた。

 その内容とは藤爛然(ふじらんぜん)地空(ちぞら)に関するある疑念で、横やりが入る直前、喪腐(もふ)はこの禍都(くに)が彼の脅威に常に晒されている状態だと言っていた。

 拉致監禁から始まりはしたが今では和解した藤爛然(ふじらんぜん)が統治する國の元住民だった無辜(むこ)(たみ)

 彼らの移住によって多少の緩和はされたものの、根本的な解決にはなっていないということに共存する上で最後に自身が一肌脱ぐことを決意する。


地空(ちぞら)さんのこと、私に任せてくれない? そのことで私からも聞きたいことがあるの」


 敵地にお呼ばれした都合上、慣れない環境や一分一秒と惜しいこともあってあまり余談や自分語りをしてこなかった露零(ろあ)はずっと潜水しているような感覚を抱いていた。

 だが息が詰まるほど殺伐としていた空気感も今ではすっかりとなくなり、また、時間に余裕ができたことで初めて浮上することに成功した少女は自身の考えを共有することで第三者目線の中立な意見を聞く。


「もふさん、前に地空(ちぞら)さんのこと老坊(ろうぼう)って呼んでたでしょ? 私たちは三世代前までしか遡ることができないの。何か関係ありそうじゃない?」


「――――初耳ね。私が老坊(ろうぼう)と呼ぶのは藤爛然(あいつ)が最高齢だからよ。流石に実年齢までは分からないけどもしかしたら当時の()()()()かもしれないわね」


 (やっぱりそうだよね)と一気に増した信憑性。

 そうと決まれば善は急げと早々に話を切り上げようとする露零(ろあ)

 だが今の話題を境にあからさまにペースアップした会話や少女の言動からこの後すぐに国を発つのだろうことが容易に予想できた喪腐(もふ)はわざわざ名指しで国へと招いた理由を説明しようと考える。

 しかし何を思ったのか、途中で思い留まると二人は互いにこれから取る行動を置き土産として共有する。


「それじゃあ私は地空(ちぞら)さんに話を聞いてみるね? もし何にもなくても攻撃をやめるように説得してみせるから期待しててよっ♪」


「もう終わる雰囲気だけど私が貴女(あなた)指名(よびだ)した理由、忘れてないかしら?」


「なんだっけ?」


「…………まあいいわ、私たちも戦後処理をしなくちゃだから。次は()()にでもまたいらっしゃい」


 名前を出さずして、以前同じ牢屋に閉じ込められた際に少女が頼み込んでいた魔砂(まさ)の墓参りがメインで今回招待したことをそれとなく匂わせた喪腐(もふ)

 しかし少女は当時交わした約束を思い出すことなくそのまま二人の対談が終了すると見送ると申し出てくれた彼女の善意を丁重にお断りし、別件での気掛かりもあって逸る鼓動がそのまま歩くスピードとなり足早に里親の営むBARへと向かう。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そして戻ってきた二つの意味での目的地、紫翠(しすい)

 アクセス、そして安否確認も兼ねて露零(ろあ)がまず最初に立ち寄ったのは里親が営むBARだった。

 最悪、扉を開ければ血の海が広がっているかもしれないと考えた少女はドアノブに掛けた手が震えてしまい、胸中で(大丈夫…大丈夫……)と呟き深く深呼吸することで震えを止めると瞳を閉じたまま意を決して勢いよく扉を開く。

 すると意外にも最悪の想定とは真逆の流血すらしていない、五体満足の同居人二人が少女の帰りを盛大に歓迎する。


「あらぁ、遅かったじゃない? 刺繍読んだわよぉ」


「二人とも、ほんとに無事なの? 幽霊とかじゃない? なんともない?」


「……」


 無言のまま腕を伸ばして見せる間微(まほろ)の姿に少し前までの日常を感じるも、露零(ろあ)は彼の実母と対峙した際に彼女が呟いた()()発言を口にする。

 その内容は主に二つで一つは彼の()()について、もう一つは彼の()()についてだ。

 不謹慎なのは百も承知だが同居人として、また、同じ里子(さとご)としてどうしても知っておきたいと考えた少女は今の関係性に亀裂が生じることお構いなしに問いかける。


「ねぇ、間微(まほろ)君って本当の名前じゃなかったりしない? それから性別も……」


「あらぁ、性別に関してはまず男性婦人(わたし)をどう思ってるのよぉ?」


「――――大丈夫だよ(さと)さん、気持ちの整理はもうできてる」

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