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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章41話『贖罪』

 識変世界(しきへんせかい)が崩壊したことで同時に現実世界に放り出された天爛然(あまらんぜん)と敵対女性。

 羽量が減少するにつれて炎が収まるのを喜びに満ちた表情で見下ろす敵対女性は不意に横から飛んできた太腕パンチもろに喰らい、遥か後方へと吹っ飛ばされてしまう。


「――――ちょうどいいわ。羽も故郷(かえるばしょ)も全てを失った哀れな女、最後は貴女の子供(きぼう)で逝かせてあげる」


「私は…まだ……」


 実体(じったい)で命の蝋燭(ろうそく)を再現し、余命(よめい)幾許(いくばく)もなくなってしまった天爛然(あまらんぜん)はこの時、ある決心をしていた。

 野良(のら)のトップとなった喪腐(もふ)、彼女が過去に言い濁した協力者こそがこの天爛然(あまらんぜん)だ。

 お互いが協力する中で最もキーマンとなったのが露零(ろあ)、そして識爛然(しきらんぜん)の存在であり、立場故にたとえどちらに属する身内だろうと箝口令(かんこうれい)を敷いた彼女の脳裏にはある日の出来事が鮮明に蘇る。


 それは過去の二人のやり取りまで遡り、何の前触れもなく幸滅(こうめつ)逆転というイレギュラーな事態がキーマンとなった二人の間で巻き起こり、にもかかわらず彼女は蛇の道は蛇だと言って退けると滅者(どうぞく)堕ちしてしまった識爛然(しきらんぜん)の面倒を見ると頼もしい宣言をしてくれた。

 さらに死に目の対面でほんの僅かに残った理性を絶やさないよう細心の注意を払ってくれていたのだとその扱いを瞬時に理解すると胸中で仲間として最大限の賛辞を贈る。


(あの褐色の子…思えばあの子も遠縁にあたるのよね? ()()()親のことを反面教師によくやってるわ。こんな私に()()()()をくれてありがとう)


 唖者(あしゃ)である識爛然(しきらんぜん)は言葉こそ発さないが、識変世界(しきへんせかい)の崩壊と同タイミングで完全に理性を失っていた。

 見境なく暴れ狂うその姿は野生動物の凶暴性そのもので、いつ彼を連れてきた木陰に身を隠す野良(のら)にその矛先が向いても不思議ではない。

 同時に自身に残された寿命(ゆうよ)もそう長くはないと本能的に理解すると彼女は考えるより先に飛び出し行動に移っていた。


(露零(ろあ)、本当は愛娘(あなた)にも色々してあげたかったわ。ごめんなさい――)


「――大丈夫、もう大丈夫。私の身勝手(わがまま)愛息子(あなた)をここまで苦しめたのよね? 謝っても許されないのは分かってる。一人にはしないわ、これからはずっと一緒よ」


「…………」


 暴れ狂う愛息子(しきらんぜん)に一切臆することなく、懐に飛び込んだ天爛然(あまらんぜん)は力強く抱きしめるとこれまで伝えられなかった思いの丈を全てぶつける。

 するとさっきまで暴れ狂っていた愛息子(しきらんぜん)の動きは停止し、顔布に浮かび上がった逆五芒星は跡形もなく消え去ると彼は人の親なら誰もが夢みた()()()を生まれて初めての言葉としてこの土壇場に発する。


「お、かあ…さん……」


 ゼロ距離から聞こえた奇跡的(ふい)な言葉に天爛然(あまらんぜん)は感情が追い付かないながらに大粒の涙を流し、決心が鈍るも密着したことで懐に忍ばせた異物の存在を強く感じると彼女は準備していた安楽死用の封印石を泣く泣く手に取り起動する。

 すると安楽石を中心に発生した氷塊が認識する間もなく二人を包み込み、氷漬けとなった二人は安楽石の中へと封じ込められる。


 その後、地面に落下した安楽石は星型となって崩れ去り、一連の出来事を空中から娯楽感覚で眺めていた敵対女性は満足げな様子で(まなむすめ)のいる方向へと飛び去っていく。


「さっきから一体何だっていうのよ? もう、これじゃあ私たちが見殺しにしたみたいじゃん。もふ先のこと、悲しませたくないなぁ」


「そんなこともないみたいだよ。()()()()が作戦だって伝令が来た、下手に介入しておじゃんになってたらそれこそ問題になってたでしょ?」


 一難去ったことにホッと胸を撫で下ろしたのは誘導係を任された野良(のら)の男女二人組だった。

 彼らはそのまま寮も兼ねている、仲間のいるホテルに撤収すると一足先に戻っていた一同に敵対女性がこの国、禍都(まがと)から立ち去ったことを伝える。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「――――っていうのが僕たちが見た全てさ。だからもふ先をそんな目に遭わせた張本人はもうこの国にはいない」


「ねぇ、ほんとにそれだけ?」


「…………違う。私はこの戦いであんたの仲間に救われたんだ、先生が反対したって私はあの人たちの名誉死(ゆうし)を伝えることにしたから」


 この会話はホテルの最上階にある貴賓室(きひんしつ)で、主要人物と現場にいた野良(のら)とで行われていた。

 計四人での会話の中、男性野良の報告に疑問を呈したのは意外にも身内の先生ではなく余所者の露零(ろあ)だった。

 少女の疑問に場の空気は張り付き、緊張感が漂うも女性野良は腹を括ると本当の意味で全てを話し、同席する先生を悲しませることになろうとも英雄の死を大々的に発信すると確固たる意思表示をする。

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