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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章40話『相殺』

 目を覚ました喪腐(もふ)、そしてお面野良は共に元いたホテルまで連れ戻されていた。

 屋内で看病してくれている教え子第一号に状況を尋ねると彼は露零(ろあ)の協力を得た際に聞いた、少女の立てた作戦を共有する。


「うっ…ここは……?」


「もふ先…よかった。露零(ろあ)から作戦(はなし)は聞いてる。二人と入れ替わりで戦線を引き受け、離脱チャンスを作ると言っていた。だから俺は、俺達はせめてもの思いで最終兵器(しきらんぜん)をぶつけて退けることを約束した」


「――――()()()()なのね。これから私の話すことをよく聞いて、生徒(あなた)達に伝えなきゃならないことがあるの」


 一方その頃、再生地点を制限されてしまった敵対女性は幸いにも人口密集地から離れた自然豊かな森林で再び肉体が再生していた。

 すると天から差し込む光の柱は一度消えるとまるでスポットライトのように、彼女のいる地点を指し示すかのように再び別地点で発生する。


「やれ面倒ね。目的地から随分遠ざかってしまったわ」


「…………」


 ――――ゾワッ。


 その時、天高くから差し込むスポットライトのような光の柱から居所を特定した野良(のら)の面々によって投入された滅者(めつしゃ)として完全に染まりきってしまった識爛然(しきらんぜん)

 理性があるのかすら疑わしい識爛然(かれ)は以前、五芒星の書かれていた顔布が逆五芒星となっていること以外で特に目立った外見的変化がないように思える。

 黒衣(くろこ)に身を包んだ大柄な体格の識爛然(かれ)は出会い頭にノータイムで合掌すると敵対女性を自身の作りだした識変世界(しきへんせかい)へと誘う。


「やってくれたわね。下手に殺められるよりこの手のやり口の方がよっぽど薄気味悪いわよ? ()()の入れ知恵なのかしら?」


「――ようやく罪と向き合う時が来たってことよ。でもその前に、私にはまだ()()()()()()がある」


幸滅(こうめつ)、汝が繰り返した悪行の数々、その根源を未来永劫消し去りなさい」

失幸(しっこう)、目障りなこの女を…いいえ、この世界に生きる人間全てを一度リセットしましょうか」


 識爛然(しきらんぜん)によって強制的に送り飛ばされた識変(この)世界で、天爛然(あまらんぜん)はずっと鳴りを潜めて待機していた。

 彼女の存在を認識した瞬間、脳裏に過ったのは願いを叶えて代償を払うという自身の編み出した至高の技、幸滅(こうめつ)(いの)り。

 それに対して敵対女性は同じ行く自身が編み出した対となる代償を払って希望を齎す至高の技、失幸(しっこう)(いの)りで対抗する。


 互いに一世一代の大勝負を仕掛ける中、欲をかいたことが災いし、タッチの差で天爛然(あまらんぜん)の祈りが現実のものとなる。

 叶った願い、その詳細とは端的に互いが今呟いた両技の消失だった。

 相殺されたことで敵対女性の祈りが未来永劫叶うことは無くなり、遠縁によって夢半ばで潰えたという事実に彼女はこれまで生きてきた長い期間の中で過去一番と言っても過言ではない、怒りに打ち震えた表情を見せる。


「信じない信じない貴女なんて眼中にない! いいわよとことんやったげる!!」


(年季(ストック)()(むこう)あるのは分かってる。それでも――)


「薄っぺらい恋、手繰り寄せる来い。遠縁の貴女も私の産物()、その一人なのにどうして反旗を翻すのかしら? (おもて)を上げて答えなさいな」


「うっ……」


 敵対女性が引き起こすあらゆる事象、その発端である禁忌(ちから)をこの世界上から消失させたのは確かだ。

 しかし、だからと言ってこれまで彼女がその禁忌によって得た力の全てが同時に消失するという都合のいい展開になどなるはずはなかった。

 頭では分かっていたものの、心のどこかでそんな淡い期待をしていた天爛然(あまらんぜん)は無意識な部分でほんの僅かに落胆する。

 すると現実は敵対女性の言葉通りに書き換えられ、突如として発生した謎の引力によって眼前まで引き寄せられた天爛然(あまらんぜん)は倒れそうになる体を顎にあてられた人差し指で支えられるとそのまま強制的に顔を上げさせられる。


「親不孝とはまさにこのことよね? 忘れ形見で親の足を引っ張るだなんて未だかつてない前代未聞の反乱(できごと)よ?」


「わた…しは……。まだ死ねない、こんなところじゃ終われない」


「かつての聡明さはどこへ行ってしまったの? 軽率で哀れな女、これまで黙認してきた事実を否定して。あの世で修羅場になってなさいな」


 今、駆り出せるだけの全戦力を以ってあたった全ての元凶との激闘。

 しかしそれでも標的を討伐すること叶わず、怒りが最頂点に達した敵対女性は見せしめとして、イカロスを再現して見せると天爛然(あまらんぜん)の背に生えたまるで天使と見紛う純白の羽を焼くことで二度と天界(こきょう)へは帰れない一生ものの深い傷を残す。


「ぎゃぁぁぁ!!」


「――――亀裂? そうよね。識変(こんな)世界、()以外がそうそう維持できるはずないもの」

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