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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章37話『同期』

 圧倒的な実力差を前にお面を身に付けた野良(のら)が取った行動は自身の寿命を薪としてくべるという選択だった。

 そんな彼はこれが先生が望む方法ではないと頭では理解していたが、自身の思いを最優先に行動すると心に誓うと同時に彼我の実力差から来る恐怖を打ち払い、一度は心室に戻った人魂を再度呼び出すと再び攻撃を試みる。


(くべた寿命(まき)は可視化できない。それでも相応の強化はされているはずだ!!)


「はぁ…やっぱりだめね……とても耐えられそうにないわ。寂しい(わび)しい心細いと私の心がどうしようもないくらい叫んでいるの。張り詰めそうなこの思い、一度発散しなくちゃかしら?」


「――――っ??! 展開!!」


 今度は特に何をするでもなく、しかし突如として女性自身が発光し始めたことで生存本能を強く刺激されたお面野良は人魂を炎に変換し、女性を閉じ込めるように展開することで防御に転じる。

 しかし()()という名の彼女を中心に起こった爆発に展開した炎は跡形もなく消し飛ばされ、その余波で発生したソニックブームの一つが地上にいるお面野良の左肩付近に直撃する。


 腕の皮一枚、何とか繋がってはいるものの、言葉にならない声を出して悶え苦しむお面野良は全方位に消し飛び、もはや人魂として機能するのかすら怪しい(じゅみょう)の消失に完全に戦意喪失する。

 心をへし折られたお面野良はそのまま地面にへたり込むと自身に意識が向けられていないにもかかわらず、再び発生したソニックブームが彼を襲う。


 ――――ポヨン。


「――遅くなって悪いわね。私が来たからにはもう大丈夫」


「…………」


 その時、二人の間に割って入った人物はお面野良が最もこの場に来てほしくないと願い、同時に気に掛けて欲しいと考えていた()()だった。

 彼女は保護膜マントでソニックブームの軌道を変えると「包まっていなさい」と言って今さっき使用した保護膜マントを肩から外すとそのまま生徒に優しく被せる。

 その間も上空の敵は自己陶酔していて、()()という唯一無二にして絶対の攻撃手段を持っている喪腐(もふ)は両手に着けた真っ白な手袋を外し、その手を左右に伸ばしてポーズをとると自身を中心に球体状に腐食が広まっていく。


「なん…で……。なんで俺なんかのために来たんだよ?! 俺はあんたに気に掛けてもらえるような人間じゃないってのに!!」


(マスク)の下がどんな素顔でも関係ない。そんなことで私があなた達に向ける(おもい)は揺らいだりしないから安心していいわ」


(これが無償の…でも、俺が欲しかったのは……)


「悪いわね。教え子に手を出された私は怒り心頭、青天井なの。覚悟なさい!」


 威勢よく啖呵を切った喪腐(もふ)の腐食が広がり、上空にいる女性の足に届くも彼女はそれでも酔いから醒める様子がない。

 そして足から全身に広がる腐食に彼女の肉体は朽ち、崩れ去ると()()()どこの馬の骨ともわからない奴に生徒(おしえご)が傷物にされたという事実を再び思い出し、喪腐(もふ)は高ぶる感情が収まらないでいた。


「――――あら居たの? 私から()()()を引き出すなんてずいぶん上澄みなのね。でも残念、それじゃあ()という名のケージは壊せなくってよ」


(動悸(どうき)……?)


「??!」

「!!?」


 自身を指してケージと称したその女性は確かに腐食して跡形もなく崩れ、消え去ったはずだった。

 にもかかわらず、次の瞬間には興奮冷め止まない二人の背後に突っ立っていて、あまりの手応えの無さに物足りなさすら感じていた喪腐(もふ)は指先に腐食能力を纏わせると振り返り様に彼女を指差し体内から腐食させることに成功する。


「失礼、愚娘(あのこ)のよう勘違いしてしまったのね。()()というのは私の力のほんの一部でしかないの。同期先はそう、()()()()とでも言いましょうか」


(ウマシカ旨味しか――。情報開示の意図はリターン、あるいは単なる馬鹿の二通り。なら私の腐食(ちから)を最も警戒するはず)


 戦場において一瞬の迷いは命取りになる。

 教育者として、誰よりもそのことを理解している喪腐(もふ)は授業に取り入れた独自の戦闘法則、その一つを引用してイメージを構想する。

 そうして骨に肉付けした彼女は今さっき内部を腐食させたにもかかわらず、片膝もつくことなく平然と立っている状況に多少困惑の色を見せるも生徒に危害が加えられないよう自身を中心に腐食させることで再度女性の肉体を朽ちさせることに成功する。


「やっぱり、私が腐食させ続ける限り範囲内に入ってこれないみたいね。よく聞きなさい、私が腐食を解除するその一瞬ですぐにここを離れなさい」


 静かに頷くお面野良。

 しかし気付くとすぐ目の前にいた敵の女性は再び二人を視界から完全にシャットアウトすると今度はメルヘンチックな自己陶酔をし始め、するとまるで世界の胎動を思わせる軽い地鳴りが起こった後、不思議なことに彼女が口にした言葉が現実として起こり始める。


「頭の中はお花畑。ねぇ? それってこの世界と似てないかしら。そう、この下には植物人間が沢山いるわ。今の私はストレスで毛根が全てやられてしまったの、だからもう一度(いちど)(おはなばたけ)を見せて御覧なさい」


「私の腐食(ちから)が中和されてる??!?!?!?!?!」


(ずっと願っていたことがこんな形で実現するなんてどうかしてる! でもどうして…敵相手に夢見心地を味わうなんてこの上ない屈辱だわ……)


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

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