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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章34話「拍手、ご清聴、白羽の鳥が立つ」

 訝しげな眼差しを四方八方、いや、全方位から一身に浴びる露零(ろあ)は目の前に切り拓かれた貴賓室(きひんしつ)へと続く道を頼もしい表情で堂々と歩いていく。

 とは言ってもそんな凛々しい姿も先導する喪腐(もふ)の背後に隠れてしまっているのだが。


「いくらもふ(せん)の人選でもあのチョイスは流石にセンス無くない? ウチらより小っちゃい()()()()()じゃん」


「ね~。でももふ(せん)ってさぁ~、紫翠時代(むかし)酷い目に遭ってたらしいから無意識のうちにそういう人達に惹かれてそうで危なっかしいんだよね~」


「だから俺たち野良(おしえご)が軌道修正しないとって話したろ? 自分だってロクな教育を受けてないはずなのにレールを敷いてもらったんだ。それに枝分かれになっても俺たちの原点は親元(せんせい)なんだから」


 こういった教え子の他人を(おもんばか)った心優しい思想は喪腐(もふ)の教育の賜物(たまもの)だろうか。

 彼女が聞けば決してそんなことはないと謙遜する姿が容易に目に浮かぶが事実としてそうであり、過去、露零(ろあ)はその出生を良く思わない連中に寄って(たか)って詰められた経験から思わず()()()()を口にする。


「なんか、みんなすごくいい人だね」


「そうでしょ? みんな私の()()子供(せいと)たちなの♪」


「ちょっ、もふ(せん)~! あたしらにも聞こえる声量とか普通に照れるからやめて欲しいんですけど」


 今日の主役である二人を歓迎や疑惑、その他諸々の様々な感情で取り囲み、見守る生徒だったが何の恥ずかしげもなくべた褒めする教師の姿に思わず一人の女生徒が声を上げる。


 だがその一方で、数多くいる生徒たちの人並みから少し離れた位置にいる特徴的なお面を身に付けた一人の青年は喪腐(もふ)の言葉に()()は含まれていないと疑念に(まみ)れた懐疑的な感情を抱いていた。

 人数を抱えれば抱えるほど、そういった若年層に起こりがちな事態に対応する手が足りなくなるのは明白だ。

 故に早急に話をまとめ、表面上に限らない目の行き届く環境を一刻も早く作り上げたいと考える喪腐(もふ)はこれが最初で最後のチャンスなのだと過去一番と言っても過言ではない程に慎重に事を進めていた。


 そうして教え子一人が抱いた不穏な負の感情に気付くことなく目的地である貴賓室(きひんしつ)のあるホテル前に到着した二人は様々な感情の入り混じった生徒たちが固唾を飲んで見守る中、宿舎の意味合いも兼ねているのだろう、かなり気合の入った外観のホテルに入っていく。


 ホテル内に入ると建物内は全てデジタル化されているのか誰一人として人の姿がなかった。

 二人の駆け引きはもうすでに始まっているのだが今、この瞬間からだと認識の遅れた露零(ろあ)は初手からいきなり面食らうこととなる。


「ここの治安なら利用者名簿以上のことは必要としていないの。疑うならそっちの藤爛然(ろうぼう)にでも聞くといいわ」


地空(ちぞら)さんに? どうして?」


 地空(ちぞら)、もとい藤爛然(ふじらんぜん)と呼ばれる少年が治める國はかつて、滅者(めつしゃ)の一員として行動する喪腐(もふ)によって襲撃を受けている。

 故にその彼が協力的だというような言い回しに違和感を感じた少女が疑問を口にすると彼女はこれまでの経緯を事細かに説明し始める。


心紬(みつ)があなた達のもとに戻ってきた日のこと、覚えてるかしら?」


「うん!」


 事の発端はそれ以前なのだろうが彼女の話はその頃まで遡り、今回、露零(ろあ)に立てられた白羽の矢とは別に協力者による二の矢、三の矢が既に放たれていると前置きした上で事のあらまし、そして野良(おしえご)に敷いたレールの終着点を共有する。

 その終着点とはおおよそ露零(ろあ)の予想通り、敵対関係にある両勢力の共存にあり、少女の同僚を始めとした腕に覚えのある者を捕虜としたのは何も危害を加えるためではないと釈明する。


「確かに心紬(みつ)お姉ちゃんの身なり、とっても綺麗だったような気がする」


「その時逃げ出さなかった捕虜も自由意志の名のもとに、今はこの国で生活しているわ」


「どうして?」


 ――――至極当然な少女の疑問。

 一見、話を円滑に進めるためには人選ミスのようにも思えるが半端に知識のある者は誰が語り手であろうと必ず生じる隙間部分を憶測や推察、あるいは自身の実体験を当てはめることで補足するだろう。

 だが前提知識が全くのゼロの状態であればそういった主観が入り込む余地は他の者と比べて大幅に低減されるというのが彼女の判断だ。

 そういった打算もある中、喪腐(もふ)はこの国()()が置かれている現状について語り始める。

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