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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章33話『約束』

 本心を腹の内に秘したまま話を進めるさとはかったのか、里子二人が疑問を抱いたタイミングで鍾乳洞ひきょうの最下層に到着し、数多くある秘境の中でも群を抜いた絶景スポットだと名高い()()()を指差すと続けて声を掛けることで二人の視線を誘導する。


「着いたわぁ。ここが鍾乳洞の最下層、ここから先は上り坂だから見収めるなら今しかないわよぉ」


「わぁ~~!!」


「……」


 ――――つもりが初めて目にした噂にたがわぬ絶景にさとも視線が釘付けになっていたのを間微まほろは見逃さなかった。

 そんな二人の様子を見た露零ろあいびつな関係性ではあるが家族の一員として、二人にある提案をする。


「二人とも少しだけいい? 私たちは()()なんだから三人だけの秘密事やくそくをしようよ」


「……約束?」


「あらぁ、とっても魅力てきな提案じゃない。間微まほろもそう思うわよねぇ?」


「……」


 無言ながら軽く二回ほど頷く間微まほろのその様子には表情筋がお亡くなりになっているだけで本来は感性が豊かなのだろうことをどことなく感じさせるものがあった。

 そんな少年の内面をうっすらとだが感じ取った露零ろあは見るも美しい地下水から愛猫()()()()を呼び出すと得意げな表情で間微まほろを見る。


「お前…! そんなことできたのか?!」


「どう? すごいでしょ~♪ 私が教えてあげるから間微まほろ君もしてみようよ」


「……」


「ね? ほんとは優しいのわかってるんだし、ましろんのことだってもっと知りたいんだよね?」


「……しょうがないわねぇ。この子、貴女のために()()()を買うつもりでいたのよぉ」


「――――おい!」


 続々と明らかになっていく各々の考え。

 だが勝手にカミングアウトされたことに腹を立てる間微まほろは語気を強めて話を遮る。

 しかし露零ろあは少年の思いを知ると無事、再会を果たすことを条件に彼のチョイスした耳飾りを貰い受けることを約束する。

 同時に愛猫ましろんの詳細を一切包み隠すことなく話すことを約束すると、露零ろあは改めて間微まほろに「本人まほろ君の言葉で直接聞きたい」と言って再度確認を取る。


「わかった、わかったから。その……俺だけ遅くなって悪いな。でもお陰で露零ろあのイメージはなんとなくわかったからまぁその、期待しててくれよ」


「うんっ! 楽しみにして待ってるね♪」


「ふふっ、円満家族のようで嬉しいわぁ。ずっと憧れてはいたけれど、ようやく叶ったってことかしらねぇ」


 その後、三人は神秘的な地下水を存分に堪能するとメンタルの好調具合がそのまま足取りに反映されたかのように緩やかな傾斜を軽快な足取りでのぼり始める。


 大義をすにあたって再び戦場に身を投じる前に一致団結した里親、里子たちはそのまま地上に出ると閉じる瞼を貫通しそうな勢いで襲い差す強烈な日差しに三人は思わず手で影を作る。


「わっ、眩しい!」


「今日はまた一段と日差しが強いわねぇ」


洞穴ほらあな暮らしが性に合っていると突き付けてくる感じだ。()()だけに」


「上手いこと言うじゃない。成長感じちゃうわぁ」


 地底都市、紫翠しすいを統治する藤爛然ふじらんぜんは大の駄ジャレ好きとして知られている。

 故に彼の統治する國に身を寄せる間微まほろさと仕込みのダジャレでユーモアに溢れていた。

 しかし羞恥心が抜けきらず、うち数の少ない少年は無意識のうちに口にしたダジャレに気付くと失言に思わず口を押えて数歩後退する。


「それじゃあ私達はもう行くわねぇ。でも危険があるのは露零ろあ、あなたの方よぉ。気を付けて」


「俺は…露零ろあになら……。やっぱり何でもない」


「ん? 二人もね~!」


 真逆の方向に歩く一人と二人はそれぞれ凛々しい佇まいで大手を振って歩き始める。

 そんな三人が地上に出た地点はこの世界、()()の中心地と言われる古代樹のあった場所だ。

 だが長年この地に眠っていた()()()()()()が少女らの手によって討伐されたことで彼が生み出した創造物もこの世界から消失し、今ではすっかり様変わりした地上の風景を露零ろあは目に焼き付けながら歩いていく。


 そんなこんなで到着した目敵地もくてきちだが、これまで訪れたどの國でも目にしたことがない機械質なそびえ立つ壁を前に露零ろあは冷や汗を浮かべながらごくりと息を飲む。

 この鉄板のような隔たり一枚の先には無数の敵が溢れ返っていることは想像に難くない。

 そんな少女が辺りを見渡すと遮蔽物しゃへいぶつは一切なく、かつては日の光を完全に遮るほどの原生林のようだった土地が面影すらなく、跡形もない荒野と化したことに自身の選択を自問自答する。


(藍爛然おねえちゃん…ううん、私たちの選択が目に見えてわかる感じ。この変化を悲しむ人だってきっと――)


 自らの行いによる変化を視覚的に感じたことで干渉的になっていた少女は防壁が開いたことに気付いていなかった。

 真上にスライドして開いた防壁の中から出てきた人物は今回話し合いの場を設けた張本人で()()が一人、喪腐もふだった。

 彼女の後ろには好奇の目を始めとしたさまざまな感情が乗った視線を向けてくる生徒の姿があり、露零ろあはそんな完全アウェイな状況にもかかわらず一切物怖じすることなく、間微まほろを思わせる強気な物言いで主導権を渡すまいと食い下がる。


「私は一人で来たのにそんな大勢でお出迎えするなんて一人じゃなんにもできないんしょ? 今だって私を中に入れてくれてないしほんとは話し合う気なんてないんじゃないの?」


「――言ってくれるわね。でも安心してちょうだい。貴賓室きひんしつにて最高の接待をさせてもらうわ。さぁ生徒あなたたち、道を空けなさい」

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