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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章32話「腹の内」

 入り口をくぐらず、ただ外から眺めるだけなら中の景色やその奥行きは全く見えない漆黒の闇。

 しかしひとたび秘境に足を踏み入れれば漆黒の闇の先に広がる絶佳に心を奪われることは間違いなし。

 それはこの地底都市、紫翠(しすい)が國ぐるみで掲げる()()()()()()()だった。


 事実、不定期に出現する秘境の一つ一つに断固として同じ景色は存在しない。

 しかしあえて三人が今回踏み込んだ()()()に触れるなら、そこはひんやりとした空間で周りは鍾乳石(しょうにゅうせき)に包まれていることだろうか。

 洞窟と言えば狭い印象があるがこの鍾乳洞は驚くほどに広く、三人はゆるい傾斜の道なりに沿って歩いていく。


「地底湖が見えるまでは緩やかだけど下りの傾斜(けいしゃ)になってるわぁ、足元に気を付けてちょうだい」


「ねぇ、無視しないでよ」


「わかってるわよぉ、相変わらずせっかちねぇ」


 (さと)としては話したいことが山積みだったが、本題を切り出されたことで男性婦人(かのじょ)は余談を断念する。

 そして本題に移ると言葉を発する直前に一度、間微(まほろ)にアイコンタクトを送る。

 そんな彼女の視線に気付いた間微(まほろ)はその真意を悟ると首を横に小さく振り、話題が決定したことで改めて男性婦人(かのじょ)は口を開く。


「――それじゃあ話そうかしらぁ」


 そう言って(さと)が話し始めた話題は主に以下の三つだった。

 一つ、それは外で二人が言及した店を捨てるのか否か。


 男性婦人(かのじょ)はそもそも二人の認識の誤りを指摘し、先入観を脳内から破棄させ白紙に戻させると改めて自身の見解を説明する。

 その見解というのは二人が地上に出れば間微(まほろ)の生みの親にして、全ての元凶たる幸滅(こうめつ)(いの)りを生み出した先代、天爛然(あまらんぜん)が十中八九現れるというものだった。

 観測できないものに怒りの感情を抱くなど滑稽極まりないことは男性婦人(かのじょ)が一番理解している。

 だが、対人関係の極致に達している男性婦人(かのじょ)は同時に言葉一つで諦めがつくような滅者(れんちゅう)ではないことも理解していた。

 故に天災レベルの浮世絵空事をいくら現実のものだと訴えようとも実物を目にしなければ真の意味での信用、理解は得られない。


 口八丁手八丁で誘導していたことを謝罪すると男性婦人(かのじょ)は改めて二人に協力を依頼し、己が命を危険に晒す選択を迫られた二人は今更引き返せないタイミングでのカミングアウトに複雑な心境になる。

 それを理解した上で言っているだろう、その性格の悪さに辟易(へきえき)した間微(まほろ)は身に付けた()マークの耳飾りを苛立ちから来る身震いでほんの僅かに揺らすと「俺を拾った理由になってない!」と初めて声を荒げる。


「わっ! びっくりするじゃんか、もう……」


 求めていた答えではない、それは確かにそうなのだろう。

 だからと言って男性婦人(かのじょ)に話す気がないと判断するのは早計と言わざるを得ないが。

 そんな里子の疑問を解消するため、男性婦人(だんせいふじん)は再び話始める。


()()()貴女(あなた)が心身をすり減らせていたのは確かにそうねぇ。でも勘違いしないでちょうだい、()()()ことこそ私の生きがいで人生を豊かにしてくれるものなの」


「……」


「だから二人を里子として引き取ったのは私のための我儘(わがまま)でそれ以上に意味なんてないのよ、ほんと」


 行動の全てに理由が伴っているわけではない。

 だが、必要とあればそこに理由などいくらでも見出すことができる。

 それこそ嘘を吐くのに次から次に言葉が口をついて出てくるように。

 しかし()と違って悪意のない純粋な男性婦人(かのじょ)の本心に納得した間微(まほろ)がそれ以上里親に食って掛かることはなかった。

 その様子に理解を得られたのだと解釈した男性婦人(かのじょ)は一旦この話を終了させると次は露零(ろあ)に関する二つ目の話を展開する。


 二つ、それは過去にした自身の助言により野良(のら)の設立国、禍都(まがと)が所有しているだろうフード付きマントについてだった。

 (さと)間微(まほろ)は共に地上に構える國、荒寥(こうりょう)に足を運ぶという話だが露零(ろあ)だけは別行動で敵国、禍都(まがと)一の有権者から話し合いの場を設けられている。

 故に不可侵、鉄壁の要塞と化した敵地に足を運ぶことが唯一許された人物であることにハイリスクローリターンだと前置きした上でくすねてくるよう提案する。


 そして彼女が最後に話した二を行う理由となる三つ目、露零(ろあ)の中に宿るもう一つの魂について。

 これまで触れられることのなかった少女の中に眠るもう一人だが、その魂はかつて自身を「シャンテ・レーヴェ」と称していた。

 今でこそ表にその人格が出てくることはないが少女の内側には確かに残滓(ざんし)が存在し、事実、原理は不明だが()()()()()()()()という目的を果たしたにもかかわらず、内に秘めたる人格が有する力『召喚術』を今もなお扱えるのにはそれなりの理由があり、原因追及が必要だと少女に告げる。


(――――というのはあくまで建前、その魂の持ち主の生きた時代が伽羅(から)もこと同じなら法を犯してでも遡ることに意味がある)

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