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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章30話『意仕事』

 遅かれ早かれ彼が店に来ることを予期していた(さと)は別として、突然の訪問者に現在更衣中の奥の部屋からは慌ただしい物音がし始める。

 それからしばらくして、奥の部屋へと続く扉から勢いよく飛び出てきた露零(ろあ)(きゅう)の二人は訪問者の顔を確認すると安心と落胆交じりの小さな溜息をホッとつく。


「な~んだ、青梗(せいきょう)さんだったんだ。ねっ?」


「そうみたいね」


「なっ、俺がどれだけ走り回ってきたと――!」


「その様子じゃ現地にも足を運んだのよねぇ? 滅者(あのこ)達に聞いたのかしらぁ?」


「ああ、聞きついでに軽く助言しておいた。心配なのはそうだろうが生存率を最優先に考えるならバラけるのが得策だろうからな」


 一勢力だけでは到底太刀打ちできないような、強大でいて共通の敵が現れた時、人は初めて手を取り合える。

 そんなことを最初に言い出したのは一体どこの誰なのだろうか。

 敵対勢力に従属する下位層の野良(のら)ならまだしも、ごくわずかな敵勢力の上位を占める主力七人の滅者(めつしゃ)は訳が違う。

 いや、そのうち一人が逝去し、もう一人も宝玉強奪作戦を決行した際に封印されたため今は五人となってしまったが、言葉の一つ一つが滅者(おの)が命を脅かす危険性を孕んでいるため、互いに手を取り合うことはおろか迂闊に人前に出るリスクすら彼らは極力避けていた。


「それじゃあ私達はもう行くわね」


 白と黒を基調としたストライプ、ボーダーの仕事着を着用した二人はそのまま店外へと出ると離反したオヌに代わって、滞った仕事を自身らで片付けるべく二人は地下街へと向かって消えていく。

 二人の退店によって再び店内には静けさが戻り、(オーナー)は里子の二人に店を空ける前にあることを手伝って欲しいと懇願する。


「休業前に少し手伝って欲しいことがあるのよぉ。ダメかしらぁ?」


「いいけどちょっと待ってて。もう出てきて大丈夫だよー!」


 訪問者が店を去っても尚、奥の部屋から出てくることのない間微(まほろ)に声を掛けた露零(ろあ)は赤面する少年の手を引いて連れ出すと三人は店内の照明を全て消し、入り口のドアに()()()と書かれた木製の看板を添えて店を出る。


「――それじゃあ行ってくるわねぇ」


「?」


 後方に振り返り、言葉を残す男性婦人(かのじょ)の視線はたった今、全室消灯したことで暗くなった誰もいないはずのBARへと向けられていた。

 そんな男性婦人(かのじょ)の様子に疑問符を浮かべる露零(ろあ)は思わず声を掛けようとするも、色々と察した間微(まほろ)に止められる。


「待たせちゃって悪いわねぇ、それじゃあ私達も行くわよぉ」


「……? まてっ! 俺たちも追いかけよう」


「ちょっと待ってよ~」


 と、声高らかに里子二人に声を掛けるとそのまま男性婦人(かのじょ)は軽やかな足取りでスキップし始め、あっという間に二人を追い越す。

 その様子にすぐに男性婦人(かのじょ)の後を追おうと駆け出した二人。

 しかし三者の距離は秒刻みで見る見るうちに離れていき、しばらくしてふと後方に目をやった間微(まほろ)は近くにあった木に片手をついて息を弾ませている露零(ろあ)の姿を見る。


「……」


 口にしてこそいないがこの競争を始めた男性婦人(かのじょ)はそのまま目的地までノンストップで突っ走ったのだろうか。

 もしそうならば、今頃地上へと続く洞窟に到着しているだろう。


 そんなことを考えながらも運動が苦手な露零(ろあ)の元へと引き返すと間微(まほろ)は無言のまま手を差し伸べる。

 すると露零(ろあ)はきょとんとした顔で間微(まほろ)の顔を不思議そうに見つめ、人慣れしていない少年は少女の顔を一切見ることなく無言で隣を歩く。

 その時、ほんの数メートルから土埃が舞い上がり、二人はその方角が進行方向上なことから里の身を案じると同時に一抹の不安を覚える。


「里さん…?! 私のことは大丈夫だから間微(まほろ)君は先に行ってあげて!」


「そんなことできるわけ――」


 緊急を要する事態である可能性は大いにある。

 しかしならば尚更、露零(ろあ)を一人にするわけにはいかないと考える間微(まほろ)

 互いの言い分が衝突し、口論になっているとその声に釣られたのか小さな影が俊敏な動きで二人の元に急接近する。

 そして岩陰から一匹の真っ白な子猫が飛び出て二人の前に姿を現す。


「お前は――」


「ましろん!!」


 現れたのは露零(ろあ)の愛猫でその名を()()()()という。

 だが飼い主がいるにも関わらず、ましろんは間微(まほろ)にも懐いていて一時は己が意思で少年と行動を共にしていたことがある。

 丁度そのタイミングで()を用いた呼び出しを行った露零(ろあ)だったが愛猫がそれに応じることはなく、少女は猫族の元締めであるシエナが離反したことで同時に繋がりを断たれたのだと解釈していた。


 だが実際にはそうではなく、ましろん目線では二人の人物に仕える形となったが故に水を用いた招集に応じる頻度がほんの僅かに低下したに過ぎなかった。

 しかし今、二人の主君が一堂に会したことで愛猫は自らの意思でここに現れたのだ。


 極端に足腰が弱く、体力面でも難ありな少女はこれまでの戦闘時、過剰なまでのアドレナリンや庇護欲で一時的に感覚を麻痺させることで何とか危機を脱してきた。

 しかし緊急時以外で「無理を強いられる必要はない」と諭された露零(ろあ)は一足先に飛び乗った間微(まほろ)に続き、巨大化したましろんの背に飛び乗ると土埃の上がった地点を目指すよう指示を出す。


「里さんが大変かもしれないの! あそこまでお願い!!」

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