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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章29話『パンダ系』

「あっ、戻ってきたみたい!」


「早いわね」


 二人が席を外してからほどなくして店内へと戻ってきた二人に快く声を掛ける露零(ろあ)

 席を外してからそれほど時間が経っていないことから大した話も、長話をしたわけでもないのだろうが耳飾り効果なのか、以前より距離が縮んだように感じさせる二人の親子に嫉妬にも似た感情を抱き、思わず目を逸らしてしまう露零(ろあ)


 そんな少女の心境を自身の境遇と体験から痛いほど共感した(きゅう)は隣に座る少女の背中を包み込むような繊細なタッチで優しくさする。

 今でこそ克服しているが彼女もまた、少女と同程度のコミュニケーション能力しか持ち合わせていない時期があった。


 そしてそれは彼女と恋人との関係性に亀裂を生じさせるまでに悪化した結果、色事が()()()と呼ばれる所以(ゆえん)を嫌というほど経験し、一度は袖を分かつ選択をしたが関係修復に成功し今の関係性を維持している彼女は先輩として少女にアドバイスする。


「人数が増えれば口数が減るの、すごく分かるわ。()()()()()次第じゃこれからの長い人生、ずっと尾を引くことになるから困ったときは遠慮なく頼ってちょうだい」


「なんでわかったの? (さと)さんも気付いてなかったのに」


「本当にそう思ってたの?」


「そう言ってくれて助かるわぁ、原因が自分にあると下手に口出しできないからもどかしかったのよぉ」


 結論から言えば男性婦人(かのじょ)露零(ろあ)の思いに気付いていた。

 それもこの場にいる誰よりも一早くに。

 そんな三人のやり取りを一歩引いた位置から物静かに眺めていた間微(まほろ)は自身の行動力の無さが招いた結果であり、会話の内容からフォローを入れられているように感じた彼の心にはしこりができる。


「……」


「もう、少し目を離すとすぐ海老みたいになるんだからぁ。そこが可愛いんだけど…ってあらぁ、なんだか浮かない顔してない?」


「やっぱり(さと)さんもそう思う?」


「そう? 私には全然そんな風に見えないけど」


 単なる身内とは言い(がた)い、少々歪な関係性だが身内の二人は彼の些細な感情の機微に気付いていた。

 故に人見知りを発動した彼を再び話の輪に連れ戻すと(さと)は率先して全員に共通する今後についての話題を振る。


「それであなた達、これからどうするのかしらぁ?」


「私はこのまま喪腐(もふ)さんのところに行こうと思ってるの。(さと)さんだって早い方がいいでしょ?」


「急かしてるつもりはないんだけどそうねぇ。間微(このこ)は私のお使いに行ってもらうとして、私も店を空けるつもりなのよぉ」


()()()()()までしておいてよく言うわね。本人に言わせるのは一周回って性格悪いわよ?」


 そう言ってベッドの下、覗き込まなければ見えないだろう死角に置かれた一つの紙袋について言及すると彼女は雑に紙袋を引っ張り出す。

 すると中には彼女の仕事着が入っており、同じ人物に仕える者として、同僚が脱退したことによるしわ寄せを全て彼女が(こうむ)ったことに男性婦人(かのじょ)は少なからず同情していた。


「モノクロストライプの正装、確かに私の仕事着ね」


「本当は病み上がりの同僚に鞭打つようなことはしたくなかったのよぉ」


「――気にしてないわ。それより着替えるから部屋を出てくれないかしら」


 彼女の言葉は()()()()にのみ向けられていた。

 だが(きゅう)が言い出すよりも前に動き出していた男性婦人(かのじょ)はドアノブに手を掛けると「ごゆっくり」と言い残し、店頭に出ると早速仕込みをし始める。


 なぜ男性婦人(かのじょ)だけを部屋から追い出したのだろうか?

 心身共に若年であるが故に中性少年(かれ)が室内にいることにはさほど抵抗がないのだろうか。

 そんなことを考えていると服の下でぐるぐる巻きになっている包帯が引っ掛かり、加えて傷によって可動域が大幅に制限された両腕に困難を強いられる彼女の姿が露零(ろあ)の目に留まる。

 そんな彼女の姿を見てられず、居ても立ってもいられなくなった少女は思わず手を差し伸べていた。


「んっ、しょっと……」


「無茶しないで、私も手伝うよ」


「いいわよ。……恥ずかしいし」


「そんなことないよ、間微(まほろ)君も手伝ってくれる?」


「俺…は……」


 自身を指して()と称したことでこれまで感じることのなかった羞恥心が一瞬のうちに沸き上がり、思わず中性少年(かれ)に目を向ける(きゅう)

 彼女は中性少年(しょうねん)の顔、そしてその造形を遠目にだがまじまじと眺めると、見慣れない形状の耳飾りが視界に入るや数秒間何かを考え込んだ後に一息つき、何も言及することなく手を貸して欲しいと懇願する。


「――わかった、わかったわよ。それじゃあお言葉に甘えようかしら。二人とも、手伝ってくれる?」


「なっ??! 俺は――――」


 予期せぬ彼女の申し出に、反射的に赤面する間微(まほろ)

 初々しい反応を示す彼は頬を紅潮させながら、噛み噛みながらも何とか意思を伝えると主に衣服類を持つ役割を担い、露零(ろあ)は彼女の更衣を手伝うと一人の時とは違って驚くほど彼女の更衣は捗る。

 その時、部屋の外では誰かの入店する音が聞こえ現在、部屋を出て店頭に立った(さと)は息を切らせて入店した来客にお探しの人物は奥の部屋で絶賛更衣中だからと言って待っているよう伝える。


「そろそろ来ると思ってたのよぉ。相変わらず着こなし能力で嫉妬しちゃうわぁ、その仕事着(ボーダーパンダ―)も決まってるわよ」


「はぁ…はぁ……。音信不通になったと聞いて駆け回って来た、あいつはどこに??」


「着替え中よぉ、奥の部屋で。少し待っててちょうだい」

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