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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章28話『助言』

 記憶がぶっ飛んでしまうほどのショッキングな光景に気が動転した露零(ろあ)は訪問者が現れてから、意識がないながらも血だらけでBARの壁に横たわっていた二人の人物を店内に引っ張り入れると無我夢中で介抱していた。

 それだけではなく、寝る間も惜しんで夜通し看病していた少女は明け方になって急激に眠りに襲われ、目を覚ましたのは眠りに落ちてからそれから数時間が経過した昼間だった。


「あらぁ、ようやくお目覚めみたいねぇ。負担の大半を押し付けて悪かったわねぇ、これでも反省してるのよぉ」


(さと)さん、あの後何があったの? 私、あんまり覚えてなくって……」


「……うるさい。ただでさえ()昼間(ぴるま)から酒気(しゅき)帯び客が店に来るんだ、五感に響く」


 このBARは原則として、日中の店内提供は行っていない。

 しかし日中からカクテルや酒をテイクアウトするような固定客は相当な中毒者であり、その大半は直前に路上飲みをしている場合がほとんどなため、かなりキツめの酒気を帯びている場合がほとんどだ。


 それは過去、()()という肩書で短期間ながらこのBARに身を寄せていた露零(ろあ)も把握している。

 故に「ごめんね」と謝罪の言葉を口にする少女はすぐに上体を起こした間微(まほろ)のいるベッドから距離を取る。


「……き」


「へっ? 木がどうかしたの?」


「ふふっ。この子、露零(ろあ)があんまりにも幸せそうな顔で寝てたからずっと動かないでいたのよぉ。目覚めついでに二人で外の空気でも吸ってくる?」


「そんなんじゃない、もういい」


 未だに気を許していないのか、あるいは気を許したが故の軽口なのか定かではないがつんけんした態度の彼にペースを持って行かれかける露零(ろあ)

 しかし上手い具合に話を誘導する二人の里親にしてこのBARのオーナーは自然な流れで()()の話題に触れると続けて彼の興味を引く単語を口にする。


「ところで間微(まほろ)、外の世界に興味はないのかしらぁ?」


(付いてきた理由は露零(ろあ)なんでしょう? ()()は装飾品と喧騒で有名な國なんだけど行ってみる気はない?)


 ――室内灯の光を反射してギラリと光ったのは間微(まほろ)が両耳に付けている()の形をした耳飾り。

 同じく男性婦人(さと)が身に付けている片耳が♂、もう片耳が♀の耳飾りも光を反射すると二つの耳飾りはほんの僅かに接触し、金属同士が接触した際に生じる鈍い音が二人の耳元で小さく鳴り響く。


 耳打ちされたことで自身がさっき言いかけた言葉が何だったのか、更に言えば危険地帯にわざわざ足を運んだ理由の言及に完全にバレていると悟った彼は困惑を隠しきれていなかった。

 彼はそのまま恐る恐る目線をスライドさせて露零(ろあ)に向けると、そこにはきょとん顔で首を傾げる少女の姿があった。


「もう、二人して何だか変だよ? あっ! 分かった!!」


 ――――ビクッ。

 包帯を貫通して傷口から侵入した塩気のある言葉、そこから全身に走る動揺はまるで稲光のようだった。

 ズキりと胸の奥底に響く痛みを何とか自我で押し殺し、痛みを表情に出さないように努めた彼だったがまるで内部出血が連動してそのまま肉体にも表れたかのように、意識とは別に彼は次第に冷汗を浮かべ始める。


「私には内緒の話してるんでしょ~」


「それは――」


「――違うわよぉ。気付かないかしらぁ」


 そう言って視線誘導する男性婦人(かのじょ)は隣の医療用ベッドに目を向けるとそこには同じく目を覚ました(きゅう)の姿があった。

 そんな彼女は話に入るタイミングを完全に見失っており、面識のある露零(しょうじょ)は彼女の身を案じると積極的に話を振る。


(きゅう)さんだ! あの時は逃げちゃってごめんね……。彼氏(せいきょう)さんは元気にしてる?」


「婿養子になるんだって除名の打診をした上に改名までしてくれたんでしょ。そういうの、憧れちゃうわぁ」


「ちょっと、そういう話はやめてくれない?」


 ――――グイっ。

 相変らずの情報通な男性婦人(かのじょ)は興味深い話で気を引いたにもかかわらず、ほったらかしにしたことで早く詳細を聞きたい間微(まほろ)に袖を引っ張られる。

 そんな彼の様子に「ちょっと席を外すわねぇ」と言い、立ち上がると二人は会話が聞かれないよう店外へと出る。


「私ね、眠ってる間に()()()のことが見えちゃったの。間微(まほろ)君を、みんなを助けてくれて本当にありがと!」


「やめてよ恥ずかしい……。そうだ、お姉さんがお願いを一つ聞いてあげるわ。だからそのことは誰にも言わないでくれる? これまで積み上げた()()()()()()としての威厳が無くなってしまうのよ」


「お願いなんて聞いてくれなくても誰にも言わないよ! でもそっか、ありがと。考えておくね」


 今、この場で()()の思いつかなかった少女は()()()の対価として提示された彼女の善意を保留した。

 今は席を外しているが、(さと)ならばどんなことを要求していたのだろうか。

 里親に対する強い憧れの感情が前面に出る少女はそんなことを考えながら、二人の回復を心の底から喜ぶとその後もしばらく他愛ない雑談を続けながら店を出た二人が戻って来るのを仲良くベッドに腰掛けながら今か今かと待つ。

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