第五章22話『魔銃』
黒煙の中から姿を現したのは敵味入り乱れた組み合わせの四人。
残る半数は突如として密室空間に充満した積乱煙によって負傷し、戦闘継続は難しい状態にある。
今さっきまで敵対していた両勢力は共通して第三勢力であるメコに敵意を示し、ほとほと呆れ返るメコは大きい溜息をつくと多勢に無勢だと言わんばかりに復活させた人形数体を差し向ける。
「実に矮小、我が相手するまでもない」
迫り来る人形を迎え撃つのは滅者から死旋と朔夜。
御爛然側は弓波露零と煙巻忍が立ちはだかる。
おあつらえ向きにも人形の弱点である炎を扱う者が三人も揃ったが人形の指揮を執るメコ、彼女もまた狐火と呼ばれる炎を扱う。
加えて天候を書き換えられることから優位性は彼女にあり、天候に左右されることのない音にまつわる力を有する死旋に全てが掛かっていると言っても過言ではない。
「一つ聞く、お前を解き放った主犯はどこにいる?」
死旋の問い掛けにメコは立ち並ぶ四人の方を指差す。
すると彼らの頭上から缶ジュースほどの小さな一つの缶が彼ら目掛けて落下し、地面と接触すると同時に積乱煙が発生する。
「あっはっはっ! そなたの探し人なら遥か上空におるわ。地上は我に明け渡したのでな」
「――――同じ手が二度通じると思うな。だがそうか、なら俺が引きずり下ろしてやる」
(やっぱりそうだ、まこもさんはあれを拾ってたんだよ)
死旋、露零は共に抱いた疑問が解消すると先に滅者の二人が動き出す。
過去には万物の申し子を標的としていたこともあり、御爛然の治める國を襲撃していたが滅者らの目的はあくまでも一貫して自身の生みの親だ。
そして今、彼らの目の前にいるのは標的に与する女狐。
標的が自身から目の前の女性に移ったことを理解した露零は味方で唯一意識のある忍に滅者にもう敵意、自身が眼中にないと伝える。
「忍さん。今はあの人たちが私達を狙うことはないと思うの、だから――」
「――わかってる。それに依代は砦に扮した敵だ」
「扮した? 笑わせてくれる。我こそ唯一にして地上を統べる絶対神。完全顕現した現人神の力、見せてくれるわ!」
依代とすら面識のない露零が初見で気付けないのも無理はない。
過去の忍の言動を踏まえて最悪三つ巴の戦いになることを覚悟していた少女にとって、いい意味で彼の変わりように多少の困惑はありつつも二人の考えは一致する。
その一方でメコは迫り来る滅者を前に水を纏った両の手を組むことで人形集合体を生み出すことで応戦する。
「神とは永久機関を生み出す者を指す。産業廃棄物如き、理解に及ぶはずもない」
「――――傀儡は任せる。音階!」
敵の言葉には一切耳を貸さず、信頼に足る仲間に語り掛けたのち、人形と同胞を強制的に上空に位置替えすると一切の躊躇なく顔面目掛けて蹴りかかる。
だがその蹴りをバク宙で回避しつつ、繰り返すことで距離を取るメコ。
その身のこなしは露零がこれまで見てきた砦の比ではなく、紛いなりにも神格化された自身よりも格上の存在なのだと死旋は認識を改める。
(雨の音だけじゃない、上空から聞こえてくるこの異音はなんだ??)
「製法は我が脳中にある。滅者らを叩き出すなど造作もない。とっとと失せよ!!」
第三勢力として戦闘に参加したメコだが、彼女は自発的に介入したわけでは無ければ特にこれといった目的があるわけでもない。
ただこのタイミングで封印が解かれ、与することを条件に与えられた領土に帰ってきただけなのだ。
すればどうだろう、余所者が勝手に住み着き、さらには彼らが起こしたいざこざに巻き込まれ迷惑しているのは紛れもなく彼女の方だ。
よってまだ依代の安定していない彼女が今、この場で明確にした目的はいつから住み着いたのかもわからない滅者をこの未知の領域から追い出すことだ。
ついでに力の一端でも示せば両勢力共にしばらくは寄り付かなくなるだろうと考え、メコは上空からあえて液体化させた、一見雨のように見える人形を降らせ始める。
それは地面に落ちると水溜まりを作ることなく人形を成し、死旋はあっという間に取り囲まれてしまう。
状況は絶望も絶望、数、そして体積をどんどん増していく人形を前に一瞬、分の悪さに苦しい表情を見せるも秘策にしてとっておきの隠し玉を持つ死旋は音圧で一時的に圧殺すると懐から魔銃を取り出す。




