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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章21話『骨粉』

 こうなってしまえばもはや一個人を指す名称も大して意味を成さない神格化された天候を司る存在。

 彼女は依代(メリュウ)の力を最大限に引き出すと本来ならば必要不可欠な雨乞い踊りをすることなく広範囲の天候を一気に変える。


人形(そなた)らの指揮権は我にある。我がケツ持ちしてやろう、対価に初陣(ういじん)を飾ってみせよ!!」


(来るっ!!)


 雨天となり気温が下がったことで原型を失い、液体化した人形(ひとがた)を再生させたメコはそれ以降、高みの見物を決め込んでいた。

 しかし戦況は完全にひっくり返ってしまい、不死身(ふじみ)VS(バーサス)永久機関という異色の組み合わせによる戦闘は思いもよらない形で決着を迎える。


「――――もう十分よ。あるべき姿に(かえ)りなさい」


 次の瞬間、黒骸臼(くろむくろきゅう)(めい)によってこれまで戦っていた骸骨は一体、また一体と大地の一部となって崩れ去る。

 その様子に唯一の対抗手段を自ら放棄したと最初は考えるも()()()()を視認すると再び天候を書き換える。


(晴天、雨天に合わせて後出しを決める腹なのだろう? 馬鹿正直に土俵に乗ってやる必要もない)


 快晴となったことで再び固体となった人形(ひとがた)全ては液体化するも、代わりにメコは狐火を複数顕現させると誘導されているとも知らずに攻撃を仕掛けようとする紫翠(しすい)組を子馬鹿にするかのように嘲笑う。


「目の(かたき)にするほど不老長生の我が妬ましいのだろう? 現人神(あらひとがみ)人間(そなた)らの裁量で推し量るなどおこがましいことこの上ない」


「生き証人なだけで処罰の対象なのは確かにそうね。でもそれを差し引いても死罪なのは変わらないわ。同郷の手心(てごころ)を汲み取れなかったのね、かわいそうに」


「手心? よりタチが悪かろうて」


 彼女らの…いや、彼女との溝は深まるばかりだった。

 円環を成した復讐劇ほど救いようのないことはない。

 ドロドロとした泥沼から脱するには一方の譲歩だけでは成り立たない。

 しかしメコにそのつもりがないと見るや、(きゅう)は懐に忍ばせた種子に語り掛ける。


()()は整えたわ! あとはお願い!!」


「コンディションが(メコ)に左右されるのは気に食わないけどここから先は僕に任せなよ」


 (きゅう)からコンタクトを取る手段が種子なだけで相手からの応答はどこからともなく生えてきた片葉が口、片葉が目の双葉から発せられた。

 と、同時に円錐に伸びた大地がメコに襲い掛かる。

 しかし彼女は狐火で往なしつつ、攻撃するにあたって目を担っているだろうそこかしこに生える監視の芽を優先して焼き払う。


荒寥(こうりょう)のように草木一本生えない不毛の地にしてくれるわ!」


 この直前、タイミングにして二度目に天候を書き換えた際にメコはあることを考えていた。

 それは拒絶反応なのか、天候操作を始めとしたこの肉体に刻まれた力を十二分に発揮できないということだ。

 初回こそ部分省略で雨天に書き換えることに成功したものの、それは()()()()()程度のものだった。


「そなたの手札など見え透いている」


「だろうね、なら切り方を変えるまでだよ」


 封じられていた空白期間はあるものの、過去の戦闘で干ばつ時に植物操作ができないことは割れている。

 だが肝心なのはまさにその()()()()にあることを彼女はまだ知らない。

 監視の芽を焼き払うごとにほんの一瞬ではあるものの、攻撃の手が緩む手応えを感じていると次に伸びてきた円錐の大地はリング状にメコを囲うと球体となって彼女を閉じ込める。

 そのまま間髪入れずに菌茸類を内部に生やすと本命を悟られないよう、ダメもとで胞子を撒き散らす。


 現在、()()及び()()に干渉して攻撃を仕掛けている人物は遠く離れた故郷にいる藤爛然(ふじらんぜん)だ。

 その彼は首元に栄養剤の入った注射器を刺し、注入すると現在戦闘の行われている未知(ひでり)領域(とち)に草木が芽生え始める。

 その時、鈍い殴打、続いて落石のような音とともに土球(つちだま)は崩壊し、内部の菌茸類は全焼し黒焦げとなった灰がほんの僅かにこびりついていることに気付く藤爛然(ふじらんぜん)


(いくらなんでも早すぎない?!!)


 直後、焼けた花びらが宙に舞い、骨をモチーフにした鈍器を手に身構える(きゅう)を視認すると二人を分かつ形でせり上がった大地の壁を殴り壊したのち、すれ違い様に憑依させた狐火によって大やけどの重傷を負わわせることに成功する。


(……っ!! 骨粉(こっぷん)も切れた??!)


「我に勝とうなど万年早いわ。億が一勝てたとして()もまた永久機関」


 肉体が滅んで以降というもの、憑依を繰り返すことで生き永らえてきた彼女にとって、今の依代(にくたい)との相性は過去一と言っても過言ではない。

 勝負もひと段落つき、慣らしも兼ねて再度天候を()()に書き換えると再び人形(ひとがた)は形を成す。


 その時、近くに作られた四つの不透明な球体はまるで卵のように割れ始め、立ち上る黒煙と共に解き放たれた四つの人影は第三勢力を前に狂気を孕んだ不敵な笑みを浮かべていた。

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