第五章17話『関心』
「どうしたの?」
カウンター席から思わず遠目に見つめていた露零本人に尋ねられ、反射的に顔を逸らせる間微。
その様子に思わず表情が緩む里は二人のやり取りを静かに見守ろうと考えるが卓上に乗った耳飾りの入ったケースを懐にしまうと立ち上がった少年は足早に店を出る。
「なんでござるなんでござるか?」
「さては喧嘩でもしたな? あいつの殺気の垂れ流し具合は悪くない。戻ってくれば発散場所として荒寥を紹介しよう」
「楽しみを見つけるのもいいけどほどほどにしてちょうだいねぇ」
店を飛び出た少年の乱雑に扉を閉める音を聞き、会話を切り上げて様子を見に来た増援組。
そんな二人に事情を話すと短時間ながら少年と共に留守番を任された南風は待ちの間の雑談として、帰りしな親睦を深めるためのサプライズプレゼントを購入したと話していたことを打ち明ける。
故に今初めて知ったわけではないと二人の認識を改めさせると自身が連れ戻そうかと提案する。
「悪いわねぇ。でもあの子のこと、今は忘れてちょうだい。私達の目的はただ一つ」
「滅者を倒すことだよね?」
少女の言葉に疑問符を浮かべる増援組の二人。
そして傾げた首を再び戻すと忍は少女の認識が自身とは異なっていること、応援要請の際に里から聞いた本来の目的を伝える。
「作戦の要がこれでは先が思いやられるな。こいつを敵の脳天に打ち込むまでが協定のはずだ。お膳立てはするがその後の相手の出方次第では問答無用で殺しにかかるぞ」
「左に同じくでござる。露零に何かあっては事でござる故、悪しからずでござるよ」
「わかっているわぁ。それじゃあ今から行くわよぉ」
「今からなの??!」
現在、日はすでに落ちていた。
流行り病による一生ものの後遺症によって外出の比率が日中に偏ることが許されない体質となってしまった南風がいる以上、勝負を仕掛けるには日が落ちてすぐのタイミングしか選択肢はない。
飛び出して行ってしまった里子の心配はあるものの、敵地に乗り込む気満々の一同はこの作戦の立案者である里の合図で全員揃って店を出る。
「言い出したからには敵の居所は割れているんだろうな? 今だけは俺が用心棒になってやる。信じて先頭を歩け」
「それじゃあお言葉に甘えようかしらぁ」
そう言うや忍は発火と同時に姿を隠し、姿は消えども確かに感じる彼の気配に何の疑いもなく里は先頭を歩き始める。
その後ろを心配そうについて歩く露零はスカウト時の出来事もあってまだ彼を信用しきれないでいた。
しかし少女よりさらに後ろ、最後尾の南風はそんな少女のそわそわとした様子に思わず声を掛けていた。
「心配しなくても大丈夫でござる。ねえさんと話していると皆自然と毒抜きされるんでござるよ。取り除くのじゃなく分解するのはある意味強み、唯一無二の神業でござるな」
「そうなんだ。一緒に過ごしてたらいつかは里さんのこともわかったりするのかな」
「拙者達よりずっと近い距離にいるんでござる、いつか理解できる日が来ると思うでござるよ」
それからしばらく歩き続け、目的地である未知の領域に到着した一行はまるで攻め入ってくることを予見していたかのように待ち構えていた四人の滅者と対峙する。
自身が仕える朱爛然の片目を奪った張本人の登場に発火と同時に忍は再び姿を現すと露骨に敵意を露わにし、棒状の伸縮杖を取り出した里は哀れみのような、何とも言えない表情を滅者に向ける。
(砂漠の悪魔…魔砂……。上司にはお前の死後を知る義務がある)
「…………一つ聞く。『スイ』という名に心当たりがあるか?」
滅者のトップ、死旋の重みの乗った問い掛けに緊張感の走る露零御一行。
中でも心当たりのある南風以外の三人は同じ人物を思い浮かべるも、絶対に知られるわけにはいかないと気合を入れると全員の表情は引き締まり、次の瞬間激しい戦闘が勃発する。
「忘れたとは言わせない。まこもを殺すだけに飽き足らず朱爛然の片目も奪ったこと、あの世で詫びさせてやる」
「――――言いたいことはそれだけか? ならば誰の意思か身を以て知らしめるとしよう。音階!」
彼の呟きによって向かい合った両陣営は透明な球体に閉じ込められる。
それはまるで磁力に引き寄せられる透明な球体は敵を閉じ込めた同質のものに勢いよく接触すると戦闘に適した密室空間が計四つ、完成する。
「里さん! みんな!! だめだ、全然声が聞こえないよ…」
「無駄だ、それよりさっきの奴の言い分は傑作だった。俺の眼が黒いうちに法を野良に移す。先立たれることを嫌うなら絶望を胸に仲良く共々族滅しろ」
透明な球体ドームに囚われた両陣営の組み合わせは滅者間で事前に打ち合わせていた。
一組目のマッチアップは露零陣営から本人である弓波露零、対する滅者はかつて風月を襲撃した死懍。
透明の球体とは言ったがスモークガラスのように外から中を覗くことができないことから少女目線では分断された他メンバーがどうなっているのか一切分からず、背負った矢を手に取り冷気を帯びた矢を具現化すると目の前の敵に全神経を集中させる。




