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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章16話「サプライズ」

 彼の言葉に思わず息を飲む露零(ろあ)

 そしてそれは(しの)も同様だった。

 いや、彼の場合は生唾を飲むと表現する方が正しいだろうか。

 同僚とはいえ就任時期の違いで上下関係が生じることは多々あることだろう。

 だが己が意見を押し通したいがためにそれを持ち出して強要することは御法度だ。

 そんな同僚の手法が琴線に触れた(しの)はまるで人格が変わったかのような、これまでとは違う強い語気で猛反論する。


「澄ました(つら)して勝手言ってんなよ! 病率(びょうりつ)(たけ)ェくせして主導権握った気でいんじゃねぇ!! 誰も言わねぇなら俺が言ってやる! 揃いも揃って慢性末期なんだよテメェらは!!」


 酒場に響き渡る根っからの治安の悪さを感じさせる罵詈雑言。

 だが実際に病床に伏した人物がこの場にいることで早熟な好青年の発言は信憑性を帯びる。

 それは彼より幼い露零(ろあ)の心にも深く刺さり、少女は思わず不安そうな表情で(さと)を見上げる。


「なるほどねぇ、それを踏まえた上で一つ弁明させてちょうだい。そもそも目に見える(やまい)が全てじゃないの。特に精神面はお医者のさじ加減一つということも珍しくないのよぉ?」


「その部分に関してはその通りだ。が、それとは別に俺の言い分を履き違えている節がある。俺が言ったのはあくまで(あきら)のためなら店をたたむという決意表明、それ以外のことに口出しする気はない」


 この時、初めて感情を爆発させたことで本人に自覚はないものの、(しの)の溜飲は確かに下がり、ここが押し時だと直感した(さと)は一歩、一歩と前に出て話し掛けることで里子(さとご)である少女に背中を見せる。


「それでどうかしらぁ、もちろん歓迎するわよぉ」


 時間が押している素振りを一切見せないのは男性婦人(かのじょ)の手腕に他ならない。

 自然な運び且つ完全受け入れムードで問い掛けてくるその様子に自然と頷いていた(しの)だったがすぐさまハッと正気を取り戻すや彼は十八番の火遁(かとん)でまるで逃げるかのように身を隠してしまう。


「それじゃあ私達はこの辺でお暇するわねぇ。後のことは任せても大丈夫かしらぁ?」


「ああ。世話をかける」


「なんで(すい)さんが謝るの?」


 少女の純粋な質問に彼はその理由が(しの)にあると言い、年齢不相応な才能に振り回されたその結果荒んでしまったと告げる。

 さらに過去、何度か矯正しようと試みてはみたものの(しの)が身の内に秘めるポテンシャルの高さに手を焼き、さじを投げたと恥を忍んでカミングアウトすると形はどうであれ朱爛然(あけらんぜん)に枷をはめたという事実に対して感謝を告げる。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それから現在、活動拠点であるBARに一足先に戻ってきた二人は未だ顔を見せない新メンバーの話題で待機組と盛り上がっていた。

 その時、入店を意味するドアの開閉音が店内に小さく響き一斉に入り口方向に振り向く一同。

 しかしそこに入店者と思われる者の姿はなく、まるで心霊現象を体感したかのように身震いする里子の二人。

 すると自身に集中した視線が逸れたことで姿を現した新メンバーは挨拶がてら名乗り始める。


「見ない顔も若干数いるな。煙巻忍(えんましのぶ)、これが俺の名だ」


(煙巻忍(えんましのぶ)、それが(しの)さんの本名なんだ)


忍遁(にんとん)殿、葬儀ぶりでござるな。その節はどうもでござる」


「……ご愁傷様だったな。それはそうと黒無垢の姿が見えないな」


「現地で合流することになっているのよぉ」


 対魔獣戦での被害者である絶命した彼女の上司、その火葬を依頼でもしたのだろうか。

 あるいは『後継者』という同等の立場故のコミュニティでもあるのかもしれない。

 そんなことを考えていると不意に里親(さとおや)に腕を引かれたことで会話から抜け、少女は腕を引っ張った張本人(ちょうほんにん)(さと)、そして同居人である間微(まほろ)との会話に加わる。


「二人には迷惑かけちゃったわねぇ」


「ううん、そんなことないよ。あっ! そう言えば(さと)さんに渡したいものがあるんだ~♪」


「あらぁ、奇遇ねぇ。私もあるのよぉ」


「……」


 二人の会話に思わず黙りこくってしまう間微(まほろ)は逃げるようにその場を離れようと席を立つ。

 しかし(さと)は彼を呼び止めると懐から一つのアクセサリーケースを取り出し彼の前に差し出す。

 同じく露零(ろあ)もカラーリングの異なるアクセサリーケースを取り出すと少女はそれを(さと)に手渡しプレゼントする。


「なんだ、これ?」


「ギリギリ被りは回避したみたいねぇ。ドキドキしちゃうわぁ」


 二人が同時にケースの中から取り出したのは耳飾りだった。

 しかしそれぞれに若干の違いがあり、間微(まほろ)が受け取った耳飾りの形は『⚥』。

 一方の(さと)が受け取ったのは片耳が『♂』、片耳が『♀』の形をしたものだった。

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