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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章15話『腹黒炭着火』

 それからしばらくの時間(とき)が流れ、不衛生な戦城(せんじょう)を立て直すべく一度(いちど)終宵(しゅうしょう)を離れた心紬(みつ)、そして(さと)を除いた面々は現在酒場にいた。

 訪問診療に来ただけの心紬(みつ)は同伴者と共に早々に故郷へと戻り、(さと)はバツの悪さからか同行を断ったためだ。

 (さと)曰く、城を取り壊してから再建までに要する日数は丸二日、二日間も酒場を貸し切ったのは一足先に終宵(しろ)を飛び出した(しの)だった。

 彼は酒場を営む同僚に事の顛末を予め伝えていて、ついてこなかったものの行く当てがないのか現場に残った(さと)の身を案ずる露零(ろあ)は終始そわそわとしている。


「あの城も無くなるのか…俺たちにとっては縁深い場所だった……」


「――そうだ。眠らない國と呼ばれる所以、國の代名詞とも言える由緒ある場所だったんだ」


 しかしそんな少女とは対照的に口々に不満を漏らす荒寥(こうりょう)の二人。

 二人の心情からしてみればそれは無理もないことなのかもしれない。

 何せ部外者によって故郷がかき乱されていると言っても過言ではないのだから。

 露零(ろあ)はこの時、あることを考えていたが自身が意見すればかえって空気を悪くするだけだと言葉を飲み込むも、さらにぼやく(しの)に対してある人物が少女の考えに近しい物言いで反論する。


「元はと言えば滅者(めつしゃ)(さと)の結託が全ての元凶だ。癒着してるのは確実なんだ、俺に任せてくれれば必ず――――」


「――――やめとけ。火のないところに煙は立たねぇ、非は見境なくしたあたしにあるんだ。だから妹分をこの手にかけたことにも気付かないでいた」


 (しの)の言葉に反論した人物は以外にも鬱病と診断された朱珠燦(すずあきら)本人だった。

 自身の言葉で現実を突きつけ、更に落ち込む彼女にかける言葉の見つからない荒寥(こうりょう)組。

 そんな負のスパイラルから何とか脱しようと露零(ろあ)は彼女に励ましの言葉をかけ背中を撫でつつ、他二人にもアイコンタクトで助けを求める。


「大丈夫、大丈夫だよ。まこもさんね、何だか満足したようなすっごく優しい顔してた気がするの」


「……だ。そうだ、俺もあの日まこもと話してる。あいつは死に場所を求めてたんだ。これまでずっと――」


「ならあたしだって死に場所を求めてる。じゃなきゃ自爆特攻なんて真似はしねぇ。(おまえ)ならあたしを()れるだろ?」


 ――――彼女の言葉にこの場の全員が息を飲み、同時に雷に撃たれたかのような緊張感が横一文字に走り出す。

 フットワークが軽いことも相まって記憶を失っている期間の出来事は多々あるが、中でも彼女が最も気に病んでいるのは直属の部下をその手にかけたという点だった。

 故に何度もその話題を言葉にし、そのたびに他の些細なことにも悪い意味で飛び火して気落ちするというループに陥ってしまい三人はどうしたものかと頭を悩ませる。


「俺たちのやり方は至ってシンプル、喧嘩でのストレス発散だ。でもたった三人で相手が務まるのか?」


「それ以前に喧嘩しようって意欲がないんじゃ話にならない。ねえさんの奴、両極端(ざつ)な仕事をしてくれる」


「あらぁ、他人(ひと)を頼っておいて随分な物言いねぇ。想定外とはいえこうなったのは私のせいでもあるからこれでも責任感じてるのよぉ」


 そこに現れたのは終宵(しゅうしょう)に留まるかのような別れ方をした(さと)だった。

 どのタイミングなのか定かではないが男性婦人(かのじょ)は市販薬愛用者である碧爛然(へきらんぜん)と直接コンタクトを取ったと言い、手に持っていた彼イチ押しの精神安定剤をふわりと店主に投げ渡す。


「っと」


「こんな奴の施しを真に受けるのか??!」


「――そうだよ。そんな得体の知れないもの飲んじゃったら最悪死んじゃうかもなんだよ?」


「ふふっ、可愛い見た目して言うじゃない。見どころ感じちゃうわぁ♪」


 荒寥(こうりょう)民の心理を逆手に取った、一見煽りのようにも取れる露零(ろあ)の物言いに感心する(さと)

 そして思惑通り本人の意思で服用した朱爛然(あけらんぜん)とその様子を心配そうな表情で静かに見守る一同。


 だが彼ら彼女らの心配は杞憂に終わり、精神安定剤を服用して以降の彼女はまるで人が変わったかのように落ち着きを取り戻していた。

 それこそいつもの猪突猛進、イケイケオーラが戻って来ることはないがマイナス発言を彼女が吐くこともなくなっている。


 その様子にホッと一息、安堵に胸を撫で下ろした一同は互いに顔を見合わせると正常な判断を下せないだろう朱爛然(あけらんぜん)に代わって皆が今いる酒場のオーナー(すい)は後輩の同行を独断で決め、その旨をこれまで切磋琢磨してきたライバルとも言える男性婦人(じょせい)に告げる。


「長い付き合いだ、ねえさんの考えならある程度読める。(こいつ)をスカウトしに来たんだろう?」


「ええ」


護衛(オヌ)もいない状況で護身術の心得もないねえさんが敵意むき出しの火葬屋を…か。もちろん何があっても自己責任ということで相違ないな? なら連れて行って構わない、俺が許可する」

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