表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
229/276

第五章14話『鬱病』

 取り押さえられたことで平常心を取り戻した朱爛然(あけらんぜん)の脳裏にはコンタクトレンズによって蘇った記憶と同時に空白期間の出来事が蘇る。


「――――おい。これは…これを()ったのは……あたし、なのか?」


「原因を作った私が言うのもあれだけどぉ。その目、手痛い代償だったみたいねぇ」


「ちょっと、(さと)さん!」


 彼女が失明する一因となったにもかかわらず、どこか他人行儀に感じられる(さと)の発言に尋常じゃないほどの殺気を垂れ流す揺らめく炎衣を身に纏った(しの)

 だが彼の放つ殺気をどこ吹く風な様子で全く意に介さない(さと)露零(ろあ)と同様の肩書を持つ(しの)を戦力として勧誘する。


「共犯の私を恨むのも無理ないわねぇ、でもその矛先は加害者(めつしゃ)にも向いているでしょう」


「――だったらなんだ?」


「私達は滅者(めつしゃ)を倒すために仲間を募っているの。同行してくれるのなら復讐()の対象が揃う場を設けると約束するわぁ」


「何言ってるの??」


「……」


 きっと見えている世界が違うのだろう。

 露零(ろあ)には里親の真意が理解できなかった。

 その時、朱爛然(あけらんぜん)が項垂れているのが目に留まり、少女は彼女の様子がおかしいことに一早く気付く。


(あきら)さん大丈夫?」


「何もしたくねぇ、したくても身体に力が入らねぇんだ。ほっといてくれ」


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方その頃、滅者(どうぞく)である喪腐(もふ)野良(のら)の指揮権に加えて設立国、禍都(まがと)の所有権を譲渡した滅者(めつしゃ)の面々は『未知(みち)領域(りょういき)』と呼ばれる最も外側に位置する土地に拠点を構えていた。

 そこに帰還した科厄(かやく)は拠点に侵入した人形(ひとがた)を圧死させている最中の死旋(しせん)と合流する。

 しかし彼は彼女が手を下すことなく戻ってきたことを読み取るやすぐに不信の眼差しを向け、さらに彼女の心をより深く読むべく「音信(おんしん)」と呟く。


「――――だがそうか、奴らの手口なら理解した。今回の一件で大きく勝ち越せたのは紛れもなく科厄(かやく)の功績だ」


「そんなにべた褒めされると気色悪いんですけど。それで何をもって勝ち越したわけ?」


 部下の質問に彼は今回の功績が主に三つだと告げるとその詳細を説明し始める。

 一つ、記憶喪失となった朱爛然(あけらんぜん)だが以前と変わらずフットワークが軽く、敵味方関係なく勝負を仕掛けていたということ。

 故にその状況が続くことは滅者(めつしゃ)にとっても望まざることだということ。

 一つ、記憶を戻す手段がそれしかなかったとはいえ、敵の主戦力を大幅に弱体化させたということ。

 一つ、心音を傍受する彼にとっての天敵、心不全である(さと)個人の底が知れたこと。


 その時、食料調達に出ていた男二人も拠点に戻り、山海の幸を入れた壷籠を手に持った二人は新天地に対する感想を思い思いに口にする。


「最初は敵地と聞いて気が休まらなかったが案外住めば都になるものだな」


「ああ、ここには手頃なサンドバックもそこかしこにいて俺好みだぜ」


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 再び場面は露零(ろあ)達に戻り、明らかに様子のおかしい朱爛然(あけらんぜん)の容態を見てもらうため、医療知識のある心紬(みつ)にその旨を伝えていた。

 だがその際に(もち)いた少女の手段に(さと)はあることを考える。


「――ねぇ。さっきの子、シエナの使役する化け猫でしょう? なんで今も人前に姿を見せるのかしらぁ」


「そんなの知らないよ。ましろんもオヌさんがくれた鬼火もずっと私の傍にいてくれるんだもん」


「お待ちどー! 速達のお客一名を連れて来たぜ」


 その時、移動の足を担った髪切(かみき)鎌鼬(かまいたち)心紬(みつ)と共に到着し、スカーフに施された刺繍によって一連の流れを理解している彼女はすぐさま朱爛然(あけらんぜん)を診察すると鬱病だと告げる。

 彼女の診断に言葉を失った(しの)は応援を呼ぶべく火遁(かとん)の術で発火と同時に一瞬で消え、(さと)戦城(せんじょう)と化したこの建物を一度リフォームする必要があると告げるとツテを当たると言って城を後にする。


「そういうわけだから私が戻るまで二人に任せてもいいかしらぁ?」


「ええ、ですが念のため例のあれを貸してもらえますか? そこから何か糸口が見つかるかもしれませんから」


「コンタクトレンズのことかしらぁ? 私はいいんだけど少し不穏なのよねぇ」


(貴女の特色を否定する訳じゃないけど他人の記憶を覗くのは身体を欠損するくらいの苦痛だというメッセージのように感じるのよねぇ)


 そんなことを考えながらもコンタクトレンズを置いて行った(さと)は彼女の持つ力、読心(どくしん)を思い浮かべると(あまり乱用しないようにねぇ)と胸中で忠告する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ