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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章12話『忍遁』

 そんなこんなで(さと)の営むBARに到着した二人は置手紙を手にどこか冷めた表情で座っている同居人、間微(まほろ)と合流する。

 何を持っているのか尋ねると彼は置手紙にかかれていたことを共有し、内容を聞いて一気に青ざめた露零(ろあ)は自身が必ず連れ戻ると約束すると二人は店で待っているよう指示を出す。


「どうしたの? 何かあったの??」


「……朱爛然(あけらんぜん)の記憶を戻してくるって置手紙に書いてた」


(あきら)さんのところに行っちゃったってこと??! 私が必ず連れ戻してくるから南風(はえ)さんは間微(まほろ)君についててあげてよ」


「それはいいでござるが一人で大丈夫でござるか?」


「私より南風(はえ)さんの病気の方が心配だよ」


 間微(まほろ)の反応を見るに御爛然(ごらんぜん)がどのような存在なのか理解していないのだろう。

 露零(ろあ)南風(はえ)の心配に彼女が患った病気を持ち出して納得させると帰宅後まもなく店を飛び出し、人一倍ある少女の行動力に呆気に取られる同居人は飛び出したことで勢いよく閉まる扉をきょとんとした表情で眺めながらぽつりと呟く。


「……いつもあんななのか?」


「いつもの通常運転でござるな」


 その後、無言でカウンターに移動した間微(まほろ)は見様見真似で数回目にしたモクテルを作ると気まずい空気にならないよう、同居人の連れてきた客人に提供する。

 いまひとつ掴みどころのない中性的な少年、『身代わり人形』という明確な目的のもとに作られた彼は人一倍観察眼に長けている。

 故にほんの数回目にしただけである程度の再現が可能となり、そんな彼の気遣いに南風(はえ)は感謝を告げると彼もまた、少女と同様に新たな環境に馴染めていないのだと理解する。


 それからしばらくして荒寥(こうりょう)に到着した露零(ろあ)は紙を貫通して飛んできた一本のクナイによってその足を止めていた。

 なぜなら少女はそのクナイに見覚えがあったからだ。

 クナイから外した紙を手に取り広げて読むとそこには『帰れ』と一言だけ書かれていて、少女は思わず(しの)と名前を口にする。


(しの)さん、そこにいるんでしょ? (さと)さんが来てるはずなの、今は私の里親だから通してよ」


 しかし返答となるはずのクナイがそれ以降飛んでくることはなく、少女が瞬きした一瞬のうちに炎のように揺らめく特殊な服装に身を包んだ小柄な男が現れると殺意の乗った、それでいてどこか気だるげに感じられる冷めた表情を向けると彼は少女が犯した罪を口にすることで自覚させる。


「あの日、お前たちが踏み荒らした石寺には先代の朱爛然(あけらんぜん)が眠っている。育ての親の安息を妨げたんだ。時間が経つほどに腸が煮えくり返るこの感覚、戻ってきた以上ナイフ投げ程度で憂さは晴れない」


「……そう、だったんだ。私にどうして欲しいの?」


「…………」


 二人分の罪を一身に背負っているということもあるのだろう。

 事情を知れば途端に罪悪感が芽生えるとはよく言ったものだ。

 だが被害者側が望んでいるものは必ずしも共通のものとは限らない。

 その振れ幅を理性で留めることを人は良しとするがこの國のトップの思想として、血を血で洗う戦いを好み史上のものと考える朱爛然(あけらんぜん)は復讐に走らない者達を総じて感情のない者とカテゴライズしていた。


 気性の荒いならず者たちの多い國なだけあり、露零(ろあ)は自身の問いに対する彼の返答までの長い間に並々ならない緊張感を走らせていた。

 事の大小はあれど当事者と加害者、あるいは第三者によってその解釈も大いに変わってくるものだ。

 故に不定形なその罪は当時同伴していた二人分求められると考え、少女は思わず自身の胸元に手を添える。


「――以前なら、と考えたが今は状況が違う。一つはもうあの石寺には近付くな。二つは知っての通り、ねえさんが終宵(しろ)を訪問している。が、何故か滅者(めつしゃ)を連れている」


(さと)さんそんなことしてたの!!」


「心当たりでも聞くつもりだったがその反応でだいたい分かった。終宵(しろ)に案内する、ついてこい」


「うん!」


 その言葉に力強く頷く露零(ろあ)

 以前なら一体どんなことを要求されていたのだろうと考えるも止め役、ひいては里親の考えを聞き出すだけで帳消しにしてくれると彼は言っている。

 ミステリアスな雰囲気を常時身に纏っている男性婦人(かのじょ)を知るいい機会だとも考えると「本当にそれだけでいいの?」と思わず尋ねてしまい、(しの)はどんなふうに見ていたんだとでも言いたげな何とも言えない表情で少女を見る。


 それからの道中、先頭を駆ける(しの)は等間隔に作られている石の山を通過時に蹴り崩して炎のの中に収納し始め、少女は一体何をしているのか尋ねる。


「ねえ、さっきから石をたくさん拾ってるけどそれって何してるの?」


「炎の中に格納したものは絶えず焼かれ続けている。土葬の黒無垢(くろむく)に並んで俺は火葬の忍遁(にんとん)と呼ばれてるんだ」

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