第五章10話『兼任』
まず、最初に心紬が語ったのは捕虜として捕らえられていた期間の出来事だった。
彼女は自身を含めた腕に覚えのある者は敵国が築かれる以前、特殊な檻に幽閉されていたと切り出すと知らず知らずのうちに檻の耐久テストに協力していたと言い、脱出時に目にした外壁が転用された檻だと告げる。
そして次に彼女が触れたのは野良という種族、そして滅者の目的についてだった。
国が築かれてからというもの、捕虜の幽閉場所は地下へと移されたと話す彼女はある人物によってその真意を知ることになったという。
だがその人物は心紬と関わりの深い人物だったこともあり、一度深く深呼吸するとその人物の名は風月に身を置く東風廉夜だと打ち明ける。
「うそっ?! 東風さんって心紬お姉ちゃんの先輩だよね??」
「裏切者……」
「ちょっとぉ。二人とも、まだ話は終わってないみたいよぉ。悪いわねぇ、続けてくれるかしらぁ」
気の早い少年少女を落ち着かせつつ、心紬へのフォローもしっかり入れると里は話を続けさせる。
その気遣いに便乗する形で「先輩は裏切っていない」と冒頭で断言すると彼が今何をしているのか、また彼の目的は何なのかをこの場で共有する。
「先輩の目的は野良との共存なんですよ。捕虜はあくまで防衛手段、古代樹が消滅すれば地底都市からの攻撃は避けられませんから」
「――なるほどねぇ。それで向こうにはどのくらい残ったのかしらぁ?」
「さぁ、過半数は逃げ延びたと思いますがそれ以上のことは……」
心紬の口ぶりからは当時の逼迫した様子が感じられた。
その際に一瞬、言葉を詰まらせたことを見逃さなかった里は情報提供に対する感謝を告げ、追加でカクテルを提供するべく立ち上がるとカウンターへと向かい残る三者によって話題は次へと移るのだった。
心紬はほとんど言葉を発さない緊張しいな少年に目を向けると彼の内面を知るべく、また距離を詰めようと話を振る。
「そういえば貴女とは初めましてですね。私の名前は神結心紬です。露零とは少しの間一緒に行動してたんですよっ♪」
「……間微。俺はただの間微だ」
「もう、心紬お姉ちゃんったら。間微君怖がってるよ」
「――――えっ? えぇ、そうですね」
その時、間微を見る直線状に里の姿が視界に入り、心紬は二人の接点を否が応でも理解する。
故に最後にあることを尋ねると、少年の答えに満足した彼女は読心せずとも大丈夫だと考えを改めるとまるで妹のように接していた露零の意思を尊重しようと決意する。
「最後に一つ、いいですか? 露零と上手くやって行けそうですか?」
「ちょっと、心紬お姉ちゃん」
「……昨日、親にも言われて考えてた。この空間は居心地がいい」
「そうですか、でも二人って見れば見るほど系統が違っていますよね」
「酸いも甘いも甘酢和えるから大丈夫よぉ」
そういって手にした追加のカクテルを提供すると、彼女はゆっくりと時間をかけて飲み干して店を後にする。
その際に見せた笑顔はどこか寂しそうで、それでいて新たな門出を祝うような複雑そうな表情だった。
彼女が去り際に残していった意味深な表情に「なんだか悪いことしちゃったわねぇ」と呟く里。
その後、三人はそれぞれ別行動を取り、露零は里が事前に声を掛けた応援要請者リストを手に風月へと出向いていた。
その声を掛けた者というのは少女がBARに身を寄せるに至った理由、滅者に対抗する戦力を募るのが目的だ。
故に少女はリストに記載されている人物、南風詩音に出会うべく城を目指して歩いていく。
(どこの國も大変だったんだよね? 砦のみんながいなくなって病気もすごく流行っちゃって……)
彼らの負った傷心が癒えていないことは一目瞭然で、それは町並みや風景に顕著に現れていた。
一生ものの後遺症が残る『流行り病』の感染者数は三分の一の人口にも上り、日の高い日中に出歩いている人物などほとんどいなかった。
人通りの少なさに本来の大通りというものを実感しつつ、町中を歩く少女は同時に國単位で負った大打撃を通行人が減ったことでよくなった通気性を肌で感じながら目的地に到着する。
城門を叩くとギィィィと大きな音を立てて開門し、少女は中へと入っていく。
そのまま城内に足を踏み入れると出迎えてくれたのは正式な後継者となった碧爛然、新月御影だった。
彼は自國に降りかかった未曽有の大災害については一切語らず、少女の目的を察すると奥にいる南風に声を掛ける。
「南風、客人だ。例の件だろう?」
「や―っときたでござるな。お待たせしてすまないでござる」




