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御爛然  作者: 愛植落柿
第五章『禍都』
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第五章9話『情報提供者』

 少年は自身の名を『間微(まほろ)』だと名乗り、未知(みち)領域(りょういき)に蔓延る人形(ひとがた)とは兄弟関係だと告げることで歓迎ムードの二人を試す。

 そのタイミングで一仕事終えた建築作業員の一人はグラスを落とし割ってしまい、やっぱりと言った様子で表情が沈んだ少年は無言で立ち去ろうと席を立ち入口へと向かう。


「こう言っちゃなんだけどぉ、里子(さとご)として迎え入れる子のリサーチはちゃんとしてるのよねぇ」


「そうだよ! (さと)さんの情報網ってほんと凄いんだから話だけでも聞いていかない?」


「?」


 二人の言葉に思わず足を止め、疑問符を浮かべて振り返る間微(まほろ)

 その様子に興味を示してくれたのだと理解した二人は自身が得ている情報をあえて羅列することで彼の境遇を織り込み済みで受け入れ態勢を整えていることを証明する。


 この時、(さと)が話した内容とは治療をするにあたって採取した血中成分から『身代わり人形』のような存在として生み出されたのだろうという仮説だった。

 そして「私と同じタイプの人間」だとその内面にも触れると推定ではあるものの、その特殊な出自から『死』、『使い捨て』と言った言葉に極端な拒否反応があるのだろうということにも言及する。


「…………」


「話すのはあまり得意じゃないのかしらぁ? それとグラスが割れたタイミングも間微(まほろ)の話が原因じゃないみたいよぉ」


 ハッとした様子で顔を上げ、他のお客の方へ振り返るとその後の彼らの様子からそれがじゃれ合いきっかけだったことを知り、勝手な勘違いで図らずも手にした安住の地を放棄しようとしたことを内心で後悔する少年。

 そんな彼の様子を微笑ましく眺める(さと)は長年の夢が叶ったこと、これからの生活を考えると脳内でレイアウト変更、及び部屋の割り当てを構想する。


 そして一仕事を終えてそのまま一杯ひっかけに来店した建築作業員が退店してからしばらく経った夜、三人は奥に設けられた等間隔に設置された医療用ベッドでそれぞれ横になっていた。

 通う頻度もそれなりにあり、適応能力の高い露零(ろあ)はベッドに入ってから数分とせぬ間にぐっすりと安眠していたがそうではない者もこの場にはいる。


 それが間微(まほろ)だ。

 なかなか寝付けない彼は起き抜けに何か飲もうと店内に出るとカウンター席には(さと)の姿があった。

 彼女も環境の変化に眠れなかったのだろうか。

 あるいは長年の夢が叶ったことで気分が高揚しているのかもしれない。

 そんなことを考えていると(さと)の方から少年に気付き、「ちょっと付き合ってくれないかしらぁ」と言って少年を誘うと自身は離席しホットミルクを作り始める。

 その間に間微(まほろ)(さと)が座っていた横の席に着くと彼女に質問を投げかける。


「なんで俺を……拾ったりした?」


「私がペットとして見ている前提の物言いねぇ。昼間の顔、差別の本質は突発的なやさしさとでも言いたそうだったけど実際どうなのよぉ?」


「……?! だってそうだ。なんであいつには手が差し伸べられて俺には…って今日までずっと考えてた」


「それを否定する気はもちろんないわぁ。だって事実なんだもの」


 思考を読まれたこと以上に少年は困惑した。

 何か言い返してきたり、上手く言いくるめられるものだと考えていたからだ。

 実際、身代わり人形として作り出された彼は自身の在り方を何かと理由を付けて決められ、反発しようにも上手く言いくるめられて育ってきた。


「それでどう、露零(ろあ)とは上手くやっていけそうかしらぁ?」


「……まだあいつのこと、よく知らない。あんたのことも」


 彼の答えは曖昧だった。

 ならば最初が肝心だと考えた(さと)は明日、ある来客予定が入っていることを告げると互いの理解を深める意味でもそこに同席してみないかと提案する。

 その提案に間微(まほろ)は出されたホットミルクを飲んでいた手を止め、「考えとく」とだけ伝えると残るホットミルクを全てのみ欲し彼は再び奥の寝室へと戻っていく。


 そして迎えた翌日、三人が開店準備を終えて開店時間になると同時に店には意外な人物が訪ねてくる。

 その人物とはつい数日前まで捕虜となっていた髪結心紬(かみゆいみつ)だった。

 彼女は露零(ろあ)にしばらくの間、故郷に戻る意思がないことを藍爛然(あいらんぜん)に聞いたと言い、加えて別件で用のあるこの店のオーナー(さと)にも同席してもらうよう懇願する。


「もちろんいいけど二人も三人も同じよねぇ? この子にも聞かせていい内容かしらぁ?」


「……」


「誰ですか、その子は?」


(さと)さんの里子(さとご)になった子なの。私の友達でもあるんだ~」


「…………」


 昨夜の二人のやり取りを知らない露零(ろあ)は無邪気に答える。

 しかし無言で俯く少年に不信感が拭えない心紬(みつ)はまじまじと彼の顔を眺めた後、読心(どくしん)できないと分かるや少女を信じることにし彼の同席を許可する。


「それでですね。露零(ろあ)の顔を見に来たのはもちろんですが私は捕虜(ほりょ)として過ごす中で見聞きしたことを伝えに来たんです」


「あらぁ、それはとても興味深いわねぇ。触れだけでもてなす気になっちゃう♪」


 そう言って情報に目がない(さと)はお手製カクテル、モクテルを三人に振舞うと里子(おこさま)二人は出された直後に手を付けて飲み、一時離席した(さと)が再び席に着くのを待つとお客にして訪問者、神結心紬(かみゆいみつ)はゆっくりとこれまでに起こった出来事を語り始める。

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