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御爛然  作者: 愛植落柿
第四章『紫翠』
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第五章6話『応援』

 國中に響き渡る警鐘に城を飛び出た三者は逃げ惑う住民を率先して避難誘導し始める。

 その中で藍爛然(あいらんぜん)は居合わせた従者の二人も交えて『火』で襲撃者は原型を維持できなくなること共有し、避難先では火を焚くよう指示を出す。


「反対に冷やしたら凝固(さいせい)しよるから(マナ)は使わんよう気ぃ付けや」


「そういうことならここは私に任せてください。木綿流(もめんりゅう)花一木綿(はないちもめん)!」


「私だって戦えるよ! あの日から成長してないと思ったら大間違いなんだから」


 相性の問題で素の身体能力のみで応戦する判断をした藍爛然(あいらんぜん)神結心紬(かみゆいみつ)は腰元に携えた愛刀を抜刀し、敵陣に突っ込むと目にも止まらぬ速さで切り拓いていく。


 その後方では弓矢を構えた少女が心室に居住(いす)む鬼火を矢に纏わせ打ち放っていた。

 少女の放った矢は侵略者に的中するとその火は一気に燃え移り、左右によろめく侵略者は次第に液体状となって原型が無くなってしまう。


「やった!」


「油断しなや。常温で再生することも過去にあってんで」


「そうなんですか? 確かに水鏡(すいきょう)は他の國より気温が低いですもんね」


 ついさっきまで敵国に捕虜として捕まっていた髪結心紬(かみゆいみつ)は当然として、この数か月間、故郷である藍凪(あいなぎ)で暮らしていた露零(ろあ)でさえも侵略者と対峙するのは今回が初だった。


 故にこの三者の中で一番戦闘経験があるのはこの國を治める藍爛然(あいらんぜん)だ。

 彼女は過去の戦闘経験を踏まえた上で侵略者のことを冷静に分析すると、知性が全くと言っていいほどに感じられないことに加えてフクロウ並みの関節可動域からある答えを導き出す。


「端的に言うから二人ともよう聞いときや。こいつらは神が創った人形(ひとがた)なんや。ウチらが神を打ち取ったらこいつら人形(ひとがた)がウチらの首を狙える証明になるっちゅう寸法なんやろ」


「ギャァァ!!」


 その時、突如として周辺一帯に響き渡った断末魔。

 声のした方角に駆けだした三者はその先で人形(ひとがた)に首根っこを掴まれ、もう一人の人形(ひとがた)が仲間もろとも鋭利な槍状の武器でこの國の住民を串刺しにしているという何とも惨たらしい光景を目の当たりにする。

 その様子に露零(ろあ)がこれまで聞いたこともないような言葉にならない怒声を発する藍爛然(あいらんぜん)は問答無用で敵二人を切り倒し、槍が貫通した住民を一瞬のうちに救出する。


「……戻ってきてすぐのとこ悪いんやけどこの子の介抱任せてもええ?」


「もちろんです! 私が捕まっている間にこんなことになっていたなんて…」


 不在期間でこの世界、有為(うい)のあまりの変わりように心紬(みつ)は言葉を失っていた。

 状況は最悪も最悪、もう以前のような平穏な環境が故郷(ここ)にはないと内心落ち込む彼女は重傷者を肩で背負うと戦場を二人に託し自身は藍凪(あいなぎ)へと入っていく。

 その様子を静かに眺めていた露零(ろあ)は姉にこれまではどうやって追い出していたのか尋ね、少女の問いに藍爛然(あいらんぜん)は自身の『水』で押し流していたと説明する。


「――そんなことよりや。ちょい耳貸し」


「わわっ! ちょっ、お姉ちゃん」


 不意に耳打ちされたことで赤面し、困惑する露零(ろあ)

 索敵要員の(とりで)がいないことで気付くのが遅れたと言った彼女はこれまでの雑兵とは違う二つの巨大な反応を感知したと話し、一度別れて別行動することを提案する。

 その提案に賛成した少女は敵の位置を確認し、少女は過去に行ったことのある『滝武者(たきむしゃ)』方面の対処を任される。


「あそこは修行名所やからそう簡単に陥落せんやろうけど敵も不死身や。攻め切れへんとジリ貧になるんはこっちやから応援に行ったって」


「いいけどお姉ちゃんは?」


「ウチも避難先(もうひとつ)の方を片したらすぐ向かうわ」


 そんなこんなでざっくりとだが話は纏まり、二手に分かれた弓波露零(ゆみなみろあ)藍爛然(あいらんぜん)こと生明伽耶(あざみかや)


 彼女の必死さから察するに、彼女が感知した生体反応はこれまでの雑兵とは訳が違うのだろう。

 道中も徘徊する人形(ひとがた)に遭遇し、少女はいつぶりか過去に召喚したクナイと同様のものを召喚するとその刃先に鬼火を纏わせ切りつける。

 その際にジュ―という蒸発音が鳴り、刃先が掠るだけで面白いぐらいに人形(ひとがた)は原型を失くして液体状に崩れ去る。

 そんな人形(ひとがた)に対する特攻を持った少女を応援に向かわせた姉の選択は決して間違えてはいなかった。


(この國にもオヌさんに鬼火をもらった人っているのかな?)


 ふとそんな疑問が少女に芽生える。

 もしいるのなら、もっと雑兵処理が楽になるはずで伽耶(かや)が協力を要請しない理由はないだろう。

 彼女の話を聞くに敵が温度に左右される生命体だということは判明しているはずだ。

 しかし現地に足を踏み入れて初めて判明した國同士の諍いを知った少女はそのことも踏まえると現状いないと結論付け、対抗手段を持たないだろう者達の身を案じた少女は一刻も早く駆け付けなければという思いで急ぎ道を駆け抜けていく。

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