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御爛然  作者: 愛植落柿
第四章『紫翠』
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第五章5話『再会』

「二人がかりでこんなもんなら拍子抜けだぜ? あたしが憎いんだろ? それともお前らも感情のねェ(くち)か?」


「言ってろ! 鬼面怒(きめんど)青鈍人攫(あおにびひとさら)い!!」


「右に同じくじゃ。蛇巳雷槍(じゃみらいそう)!」


 感情を爆発させるとはよく言ったものだ。

 それだけに抑えの利く、また不発に終わろうものなら初めから無いに等しいと第三者は捉えるだろう。


 煽りの面も大きいのだがまんまとその挑発に乗ってしまい、触発された単細胞の二人は蒼炎を肩に背負った刀に、雷電を構えた槍に纏わせるとこの一撃で勝負を決めようと考える。

 そんな二人に応えるように両の腕に口から立ち上らせた黒煙を纏わせると三者は激しくぶつかり合う。


「あの二人、また…。はぁ……迎えを頼まれてくれるかい?」


「はいは~い。わたぐもタンカーならメリュ~ちゃんにお任せだよっ」


「タンカーじゃなくて担架、ですよ。猫歩道(キャットウォーク)も出せますがどうしますか? それより雨乞いすれば二人の力も弱まるんですよね?」


「エナちゃんもわたぐもみたいにもっとゆるふわ系でいこ〜よ。あれすご〜く長い時間お祈りしなくちゃいけないからとっても疲れるんだよぅ」


 彼ら(とりで)が転居してからというもの、血の気の多いわんぱく二人組の衝突など日常茶飯事だ。

 毎度のことだが加減も引き際も知らないが故に重傷を負う彼ら彼女らを運ぶ足となっているのは主にメリュウとシエナの二人だった。

 今回はメリュウが搬送の足を担い、彼女は國を抜け出す際にこっそり持ってきた『わたぐも抱き枕』を両腕で抱きしめるとふわふわと浮遊しながらド派手な爆音が聞こえた方向へと消えていく。


(誰? 誰なの? 地上に降りてからずっと誰かに呼ばれてる気がする。もしかしてメリュ~ちゃんって地上じゃ人気者なのかも!)


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 時同じくして『禍都(まがと)』では侵入者である風月(ふうげつ)メンバーが三組に分かれてそれぞれ捕虜を解放して回っていた。

 ここは敵地のど真ん中、いくら実力者とは言えど一國での選りすぐりたった五人では勝算が皆無だ。

 故に解放率がそのまま戦況に直結すると言っても過言ではない。


(こうなることを見越して『ねえさん』に渡された捕虜リストには一通り目を通してきた。だがなぜ地下牢である必要がある? それに期間に対して身なりが整っているのは何だ)


「遅くなってすまない。追手がすぐそこまで来ている、助かりたいなら俺の代わりにより大勢を解放してくれ」


「あっ…でも……」


御影(みかげ)さん、俺達は……」


「今は時間も人手もない。俺は足止めに向かう故後のことは任せる」


 ――――地下通路にそよ風程度の風が吹き、それは全体に循環する。

 その後、錠の鍵を近くにいた解放済みの捕虜に投げ渡すと地上に出た御影(みかげ)は追手が部下と対峙しているはずの滅者(めつしゃ)だと理解し、因縁のある二人は激しい火花を散らしながら対峙する。


 一時は道を誤ったが与えたチャンスを死に物狂いで拾い上げようと並々ならない努力をしてきたことは御影(みかげ)が一番よく分かっている。

 最初は監視下に置く目的で行動を共にしていた彼だったがいつからかその認識は愛弟子へと変わりつつあった。


「全く、世話の焼ける後輩だ」


「すみません」


 研鑽を積んだとはいえ、速さに定評のある二人はその一点においては互いに拮抗していた。

 故に高揚作用のある追い風を吹かせることで愛弟子のアシストすると徐々に形勢は逆転し始める。


 その時、一早く現着した滅者(めつしゃ)最速の男『四速の死懍(しりん)』に緊急の無線電話が入る。

 コンタクトを取ってきた人物は襲撃時に一緒にいた生徒の避難誘導を終えた死旋(しせん)だった。

 心中での会話を終えた彼は口角を僅かに上げるとカウントダウンを胸中で呟く。


(三、二、一。ふっ、愚かな。これが俺の最高速と思わぬことだ)


「――ッ!!」


「――くっ!!」


 自身にかかった尋常ならない負荷(じゅうりょく)に押しつぶされる二人。

 その不意打ちで瞬間的に抱いた恐怖を糧に変えられてしまい、敵の硬直と自身の加速によって死懍(しりん)は体感四倍速と最高速度を出すに至る。


 その時、頬に雫が落ちるような感覚に露零(ろあ)の意識は徐々に現実世界へと引き戻されていく。

 そうして目が覚めるとさっき見た光景が全て夢だったということを理解し、しかし自身の頬に雫が落ちたような感覚は夢などではなく紛れもない現実世界からの干渉だと知る。


「おっと、起こしてしまいましたか?」


「うそ…なんで……心紬(みつ)お姉ちゃんがここにいるの……?」


 それは少女にとって、夢以上に夢にまで見た光景だった。

 幽霊でも見たかのように言葉を失い、寝起きなこともあって思考停止している少女に彼女はいつもの調子で語り掛ける。


「実は昔から露零(ろあ)が眠っている時によくほっぺを触っていたんですよね。その時は全然起きてこなかったんですけど修行が順調に進んだということなんでしょうか? 少し寂しいです…」


 ――――カンカンカン!!


 その時、國中に警鐘が鳴り響く。

 それは敵襲を知らせる合図であり、少女はこの時初めて最も外に位置する未知(みち)領域(りょういき)を徘徊する謎の生命体と相対する。

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