第五章4話『誘い文句』
奇襲組がそれぞれ戦闘を開始する中、各地で起こっている現状を一通り聞き終え解散した里の営むBARに集った招集組。
しかしオーナーである里は解散宣言をした直後、露零だけは別だと伝えると個別に二つ三つ話があると言って呼び止める。
「悪いんだけど露零はもう少し付き合ってくれるかしらぁ。いくつか提案があるのよぉ」
「提案?」
彼女は少女を私情で引き留めた身として、カウンター席に座るよう促すとお手製のモクテルをサービスだと言って提供し、「まだ起きてこないみたいだから先に話を進めてもいいかしらぁ?」と少女に尋ねる。
「うん。それより里さんが作ってくれたこれ凄く綺麗。ほんとに飲んでいいの?」
「もちろんよぉ。それで提案っていうのはねぇ、この店を拠点として活動しないかってことなのよぉ」
「里さんのお店を?」
突拍子のない提案に思わず気の抜けた声で聞き返す露零。
すると彼女はその考えに至った経緯を説明し、その上で身元引受人である藍爛然にはすでに話を通してあることを告げる。
「私達の敵は『滅者』、『侵略者』、『神』、『砦』の四つよぉ。水鏡にいれば不死身の侵略者に手がかかりっきりになるけど滅者相手に露零は欠かせないと思っているの。どうかしらぁ?」
「そっか、私は滅者として生まれたから……」
「どちらでも対応できるようにお姉さんに話は通してあるわぁ。お好きな方を選んでちょうだい」
流石というべきか、この世界で最も人脈を築いた人物は円滑に物事を進めるための立ち回りも完璧だった。
しかしそんなことを急に言われても心の準備、ましてや考えすらしなかったことを一時の感情で答えることが露零にはとてもできなかった。
長考の末に『一度持ち帰る』という選択を取った少女は一旦この話を終了させると二、三あるという次に控える話について尋ねる。
――――ギィィィ。
その時、奥の扉が音を立てながら外開きに開き、寝起きが悪いのか殺気を垂れ流しながら露零と同年代のように見える中性風の少年が出てくる。
彼は肌が露出した箇所全てに包帯を巻いていて怪我の酷さを物語っている。
しかし店内の雰囲気が少年の放つ殺気に飲まれたり上書きされることは決してなく、里は持ち前の包容力で空間丸ごと彼の殺意を包み込むと無造作に近付き問い掛ける。
「あんまり言いたくないけれどぉ、店の雰囲気を作るのはオーナーだと思うのよねぇ。それより貴方、私の里子になってみないかしらぁ?」
「――っ! ふざけるな!!」
「里さん危ない!!」
優位に立たれたことに腹を立てたのだろうか。
あるいは無神経な問いに腹を立てたのだろうか。
怒りに打ち震えた少年は何本も青筋を立てると凄まじい熱気を放出し、度数の高い酒に引火したことで激しく店内は燃え上がる。
間一髪で里を救出し、脱出することに成功した少女は「いきなり何するの??」と粗暴な彼の行動について問い掛ける。
「俺はお前たちに都合のいい道具じゃない! 利用されるのも殺されるのも御免だ!!」
「面倒見がいがあるじゃない。そう言えばあの話は持って帰るんだったかしらねぇ。悪いんだけど今日のところはこれでお開きにしてもらえないかしらぁ」
「でも里さんは大丈夫なの? 一緒に来る?」
「あらまぁ、嬉しいお誘いだけど大丈夫よぉ。明日になったらまたきてくれるかしらぁ?」
「うん!!」
「…………」
二人の会話を背中越しに聞いていた里子候補の少年は店を燃やした罪悪感から逃げるように足早に移動し、彼に続く形で三者それぞれが別方向に歩き始める。
その後、故郷に戻ってきた少女は城門の開閉役だった砦不在の中手押しで重たい城門を押し開け中に入るとそこには姉である藍爛然の姿があった。
彼女は露零の帰還に笑顔で出迎えたが人一倍感受性の強い少女は彼女が本当に待っているのは自身ではないことに気付いていた。
だがそれを決して言葉にすることはなく身の内に秘め、何事もなかったかのように振舞う少女に藍爛然は話を振る。
「おかえり。ねえさんのとこ行ってたんやろ? 疲れてるところ悪いけど姉妹水入らずでちょい話さへん?」
「そういえばお姉ちゃんと二人っきりで話したことってなかったかも」
そんな話をしながら城へと移動する二人は城内に入るや、今や二人になってしまったことを静けさから感じ取ってしまうも一番近い部屋に入ると早速雑談し始めることで紛らわせる。
最初に話を切り出したのは露零だった。
少女はついさっきの出来事を姉に話すと里の店が全焼したこと、一人残して帰ってきたことを相談する。
すると藍爛然は少しの間考え込み、様々なことを考慮した上で「ウチも気持ちはあるけど本職の者には勝てへん。心配せんでも大丈夫やろ」と言って少女の選択を肯定するとその後もかなりの時間、二人の雑談は続いた。
立て続けに起こる問題にまとまった時間が取れなかった二人は國巡り、近況報告などで盛大に盛り上がっていると時の流れは速いもので、日が落ちて間もなく二人は眠りに落ちていた。




