第五章1話『会談』
万物の申し子を討ち果たした日から早数か月。
各々故郷に帰還した御爛然を待ち受けていたのは歓喜とは程遠い、さらなる試練だった。
この数か月の間で五ヵ國では次々と砦が離反し國を去っていた。
砦は現在、鉄壁の要塞と化した野良、滅者連合組織が設立した新たな国『禍都』、そして御爛然の治める國との狭間にある名もない土地に住み着いている。
そこはかつて『未開の地』と呼ばれていた場所なのだが万物の申し子を討伐したことで今現在は陽光が差し込んでいる。
そしてそれは最も外側に位置する『未知の領域』も同様だ。
そんな余談を許さない逼迫した状況の中で各國からの要人による会談が本日行われた。
参加者は水鏡から藍爛然代理の弓波露零。
荒寥から酒場を営む男性、酔。
風月から砦の直系弟子である南風詩音。
紫翠からBARを営む男性婦人、里。
そして白夜からは天爛然、東雲出娜が会合場所として指定された里の営むBARへと集結した。
「露零殿ぉ、見慣れない人がいるでござる…」
「大丈夫よぉ。今日は私が回し役だから安心してちょうだい」
「私も全員と面識あるんだよ。いいでしょ~」
「――――懐かしい顔だ、今日は持ち合わせがある。飲むか?」
そう言って酒場の店主である酔は謎の液体の入ったパウチを南風と露零に投げ渡す。
その様子に「変なもの渡しちゃだめよぉ」注意喚起する里。
だが彼女の心配とは裏腹に「おいしい!」と口々に言う二人がこれは何なのか尋ねると酔はそれを「スパークリング」だと答える。
「あらぁ、いつの間にそんなもの扱い始めたのかしらぁ」
「ライバル店に何でもかんでも話はしない」
「いけずねぇ。でも情報管理はそれぐらいでなくちゃ」
「はいはい、雑談はそれぐらいにしてそろそろ本題に入るわよ」
懐かしの面々との再会に浮足立つメンバーを軽くたしなめたのは『この場』のまとめ役、出娜。
彼女は続けて御爛然不在の間の里の行動について言及すると彼女は自身の取った行動とその意味をこの場にいる全員に共有する。
「それじゃあねえさん、事の経緯を説明してもらえるかしら?」
「別に大したことはしてないのよぉ? でも強いて言えばそうねぇ――」
彼女は前碧爛然が今回の騒動を予見し、記し残した書物があるという前置きをした上で自身が取った行動は主に四つだと語った。
水鏡の流行り病が解骨だと判明、その病状悪化を防ぐために油分を摂取する必要があったこと告げると未知の領域で発見された新種の果実、ココナッツをベースに増産した経口摂取可能なオイルを配給したこと。
風月の流行り病が月黄泉だと判明、その病状悪化を防ぐために一部地域ではすでに浸透している月光浴をより定着させるべく、また、進行を加速させる日光が発する紫外線対策としても期待できる温泉卵をご当地名物として普及させたこと。
荒寥の流行り病が狂尽だと判明、その病状悪化を防ぐために密室空間で絶え間なく頓化効果のあるお香を焚き続ける必要があるが、國民全員が避難できるだけの場所の確保が難しいため物資の支援のみを行ったこと。
紫翠の流行り病が恋忘だと判明、その病状悪化を防ぐために風月の観光名所である月彩庭園復興時の客寄せとして交配した新種の品種薄紫色の勿忘草の効能に着目。
それから中和剤が作れるのではないかととある医療団体に依頼したこと。
「なんで白夜だけ何もなしなのよ」
「それは記されていなかったし移動手段が地空のエレベーターしかないんだものぉ。仕方ないじゃない」
そう、羽を持たざる者の天空都市への移動手段は『地』の力を有する藤爛然に大地をせり上げてもらう必要がある。
そんな二人のやり取りに「それじゃあ私が出娜さんの國に行くことはないかもなんだ…」と落ち込みながら呟くと、彼女は優しく微笑みながら少女に告げる。
「ふふっ、そんな風に思ってくれていたのね。今すぐには難しいけどもう少しして落ち着いたらいつでも遊びにいらっしゃい」
「仲睦まじいところ悪いんだけどぉ、砦の離反と捕虜の解放についての話もまだ残っているのよねぇ。どちらから話そうかしらぁ」




