第四章50話『揺り籠』
(前ほどやないけど御影が原初の力を継承してから思うてた以上に力が戻ってきおった。一体ウチらが手足縛られとった間にどんな死線をくぐってきたんや)
御爛然を牽引する二大巨頭である朱爛然と碧爛然。
二人のたゆまぬ努力を原初の力を通じて全身で感じた藍爛然はお膳立てされたことで完成した実力以上の力を発揮できる得意フィールドで最後の大勝負を仕掛ける。
「あんたらの意思はウチが絶対無駄にせえへんよ。生憎うちらははいつまでも箱入り娘でおるほどお淑やかちゃうんや。最後の勝負と行こか」
「……良心を殺して生みの親たる両親を討ちに来るか。親不孝なことこの上ない、そうは思わぬか? 天命創始樹よ」
刻一刻と激しさを増す豪雨。
枝垂桜のようになってしまった髪の隙間から覗くホラー映画さながらの万物の申し子の瞳に今更二人が動じることはなく、フィールドに合わせた『水』を主軸とした戦闘シミュレーションを脳内で行った彼は藍爛然と激しく拳を打ち交わす。
「きゃあ!!」
「なんや?? 急にどないしてん??!」
その時、突如後方から聞こえた少女の叫びに一瞬気を取られた藍爛然は再度的に目を向けた際、眼球が失われているという事実に動揺する。
その様子を遠巻きに見ていた満身創痍の藤爛然は思うところがある様子で目を背ける。
「――――我は全て見てきた。其方らの誰も手の内、腹の内を明かしておらぬというのに足並みを揃えるなど笑止千万」
「それがっ、なんやっていうんや!!」
「メコ、彼の者が存命なら其方ではなく朱爛然有利のフィールドを展開できたものを惜しいことをしたと憂いている。其方には荷が重いのだ!!」
地底住民と同じく『植物人間』な万物の申し子は欠損部位を果実を実らせるが如く即座に再生させることができる。
後方に控える露零が悲鳴を発したのはその性質故にくりぬいた眼球を投げ放っていたからであり、その特性を同じ力を有する者、藤爛然は自身の手の内全てを共有してはいなかった。
いや、正確には彼にそれを行えるだけの余力が彼には残されていなかった。
一國を担うものとして、マイナスに作用する持ち札をわざわざ公開する必要はない。
しかしその選択が却って五人の関係性に亀裂を入れ、万物の申し子に付け入る隙を与えてしまったのだ。
「ヘイフリック限界を知られると虚を突かれると考えたのだろう? その年齢では無理もない…
が、我にとっては都合がいい」
「…………」
状況が一変したのは誰の目にも明らかだった。
露零は投げ飛ばされた眼球を矢で射貫き凍らせることに成功するも藍爛然の方は動揺を誘われたことで防戦一方の状態。
くりぬいた目も気付くと復活していて、その様子を歯痒そうに見ている他の面々に侮辱された張本人、藤爛然はあることを頼み逆転の芽を探る。
「――――さっきからあんた、何が言いたいんや? 墓まで持って行くて國のことを思うた選択は見習いこそしても誰も幻滅せえへん」
「その割には動揺が顕著に表れている」
「――っ!」
そう言って気合を入れ直して奮起し、盛り返した藍爛然。
凛とした空気に彼女の周辺の雨は凍り付いて小さなつららと化し、その様子に一瞬気を取られた万物の申し子は自身が散々こき下ろした藤爛然により致命的な足止めを受けてしまう。
「散々僕のことを好きに言ってくれたね。今は藍爛然の清水で理性を保っていられるけどそれもいつまで持つか分からない。今生最後の深の力をその目に焼き付けなよ」
(心の臓を覗かれている感覚…悩みの種? 監視の芽か?!)
「あんた……」
心内を覗かれたことにより弱点を知り得た藤爛然は弱点の部位が胴体であることを共有する。
更に急成長した監視の目芽は万物の申し子の背中から蔦のような形状で発生し、彼をきつく締め付け拘束する。
「今だよ」
「露零!!」
「胴体を狙えばいいんだよね??」
しかしこのままただ黙ってやられる敵ではない。
肉眼ではおよそ視認不可能な『かまいたち』で自身を拘束する蔦を切り裂き、彼はそのままその矛先を藍爛然へと向ける。
しかし攻撃動作から軌道を予測することで回避すると再度、露零に声を掛けることで催促し、氷結したことを確認すると水圧圧縮パンチで凍った万物の申し子の胴体を一撃で粉砕する。
「お姉ちゃん!」
「これで終いやぁぁぁ!!」




