第四章47話『集結』
三者による派手なドンパチに触発され駆け付けた記憶喪失の朱爛然、朱珠燦は滅者との戦闘の際に負った後遺症により敵味方の判断ができていなかった。
故に同じく地面に這わせた炎で碧爛然を燃やすと全方位に敵意を向け、膠着状態のように思える現状を一変させる。
「燦さんやめて! 私達は敵じゃないよ!!」
「関係ねェな、戦地で言葉を鵜呑みにする奴から死んでくからよ」
決して届くことのない露零の訴え。
しかし初対面の少女な認識の燦はからしてみれば無理もなく、聞く耳を持たない彼女は自身の体験談を交えた上で突っぱねると並々ならない殺気を放つ万物の申し子に興味が移る。
「なんとなくわかるぜ。お前、原初の力の生みの親だろ?」
「……」
(えっ??!)
泡立つ音がまるで心音のように小さく鳴る。
それは生意気にも生みの親たる自身を見据える敵を確実に葬るための予備動作だ。
だが敵が次に見せた一瞬の攻撃モーションを瞬間的に察知した少女は声を大にして全員に告げる。
「気を付けて! 何かしてくるよ」
「敵の言葉に貸す耳はねェ!!」
そして放たれた技はある意味で津波を想起させるほどの大放水だった。
全方位に流れ広がる放水に倒木は流木と化し、露零は心室に住まわせた鬼火を呼び起こすと薪となる憎悪をくべ、そしてその矛先を自身に向けさせる言葉を胸中で呟くことで火力を最大限まで引き上げる。
(怒らせる言葉怒らせる言葉……そうだ! 割れ物注意の硝子顔!!)
年相応の心なく、それでいてこれ以上ない悪口で居住者の全神経を逆撫でした少女の身体は突如としてバーナーに炙られたかのように蒼炎に包まれる。
本来、体外操作できない鬼火の特徴として宿主本人に熱は伝わらない。
しかし今回ばかりは違い、必要以上に鬼火の怒りを買ったことで多少の熱が伝わったことに動揺した少女は調整ミスにより足元を掬われる。
本来の少女の作戦はこうだ。
鬼火の熱で迫り来る大放水を蒸発させ、その間に冷気を纏った矢で死角のないよう円形に凍らせるつもりでいた。
だがそんな作戦は失敗に終わり、敢え無く撃沈した少女を救出したのは流水によって消火された碧爛然だった。
彼はそのまま近くの大樹に避難するとそこにはすでに避難していた朱爛然の姿があった。
しかし彼女は二人に一切目を向けることなく木を飛び移りながら高速で移動すると放水発生源から浮遊し、姿を現した万物の申し子目掛けて渾身の一撃をぶちかます。
「腰が重てェならあたしが矯正してやる! 喰らいな、天掌燁!!」
この世界の一組織、その主戦力である五者。
目前の敵が自身と同じ力を有し、五本の指に入る実力者である彼女だからこそ気付いた弱点。
それは強大な力を有するがあまり同時使用ができないこと。
加えて力を過信したが故のムラのある体術面と感覚のままに彼女は言い当てる。
だがその見立ては半分間違いであり、正確には寝覚め直後でまだ感覚が戻りきっていないだけだということを三者は気付いていなかった。
彼女の放った天掌燁は万物の申し子に直撃すると間髪入れず、残る二人も追い打ちをかける。
碧爛然は殴り飛ばされた万物の申し子目掛けてフラッシュ弾を打ち放ち、そのさらに後方では露零が弓矢を構えている。
そして背後に伸びた影から出て背中を取った碧爛然は顔を上げて目前を見た際に視認された少女から意識を逸らすべく抜刀し切りかかる。
「親不孝なことこの上ない……」
そう呟くと全て回避した上で飛行し距離を取り、更には流木を空中操作すると同時に三者を攻め立てる。
その様子にこの空中操作能力は天爛然由来の力だと警告する碧爛然は飛んできた大木の下敷きになってしまい、木伝いに飛び移る朱爛然も消し炭にした大木の影に隠れていた岩石に撃ち落とされてしまう。
「――笑止」
「御影さん! 燦さんも! そんな……」
そして残る敵は露零だけだと確信した万物の申し子はほんの微かに口角を上げると先端の尖った、他二人よりも殺傷力の高い鋭利な木材を高速で飛ばす。
(ダメだ…私じゃとても避けられない……)
「――――その必要はないで。堂々としといいたらええ」
どこからともなく掛けられた言葉には包容力があり、次の瞬間、少女を中心に外広がりに水球が発生する。
それは宝玉を奪われていたことで身動きを封じられていた残る御爛然参入を意味し、満を持して御爛然が出揃ったことでいよいよ戦闘は佳境に差し掛かる。
「おねえ…ちゃん」
「まだあんたには大トリ務めてもらうからもうちょい頑張ってもらうで」
「それまでは私達が何としても繋ぐから心配しなくて大丈夫よ」
「他でもない『ねえさん』の頼みだから仕方なく来たけど汚物と向き合うとか香害で病状悪化する…うぷっ」




