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御爛然  作者: 愛植落柿
第四章『紫翠』
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第四章45話『万物の申し子』

 それから更に日付を跨ぎ、(さと)の預言したこの世界に最初に産み落とされたとされる万物(ばんぶつ)(もう)()なる人物が呼び起こされる推定日。

 これまで巡り回ってきた國を決戦の地にするわけにはいかないと考えた少女は昨夜のうちに改心したシエナに協力を仰ぎ、各國に水鏡メンバーで考案した作戦を伝達していた。


 その内容とは神と称される未曽有の脅威を敵地である未開の地で迎撃し、その迎撃は御爛然(ごらんぜん)のみで行うというものだった。

 更に自國の現状も付け加えると水鏡(このくに)からは藍爛然(あいらんぜん)の片割れである弓波露零(ゆみなみろあ)が出向く旨を共有する。


御爛然(ごらんぜん)の中で宝玉に縛られずに動けるのは碧爛然(へきらんぜん)朱爛然(あけらんぜん)だけなの。だからお姉ちゃんたちのことはシエナさんと青梗(せいきょう)さんに任せるね」


「私のせいで随分迷惑かけてしまいましたね。『あおき』にも」


「昔の呼び名はやめろ。いざとなったらこいつの持ち越した奥の手がある、そっちも無理するなよ」


「うん。それじゃあ行ってくるね」


 マイペースでほんわかした空気感に思わず笑みが零れた少女はそう言って藍凪(あいなぎ)を後にする。

 そのまま水鏡(すいきょう)からも出て未開(みかい)の地に到着すると事前に各國に伝えた合流地点を目指してさらに歩みを進める。


(なんだかおかしい。心紬(みつ)お姉ちゃんと通ったときは野良(のら)がいっぱいいたはずなのに…)


 足を踏み入れてすぐに少女は違和感を感じ始めていた。

 それは(さと)の見立てを裏付けるものになるかもしれないと考え、注意しながら進んでいくとしばらくして少女は面を付けた碧爛然(へきらんぜん)こと新月御影(にいづきみかげ)と合流する。


「――――遅い。姉さんに急を要する事態だとは聞いている。朱爛然(あきらんぜん)朱珠燦(すずあきら)を連れ出すには奴の興味を外に向けさせる必要がある」


御影(みかげ)さんだ! それってつまり?」


「俺達二人で派手にドンパチするってことだ」


 そう言って愛用の拳銃を愛でる御影(みかげ)

 長い年月を経てこの地に再誕する万物(ばんぶつ)(もう)()を歓迎する第一陣として最前線に立った二人。

 少女は未だに力を継承せず、碧爛然(へきらんぜん)という肩書を持て余している彼に宝玉を取り返す算段があること、そして成功した暁には正式に力を引き継いでほしいと懇願する。


「だめ?」


「…………来る」


 すると突如として激しい地鳴りが未開の地だけに留まらずこの世界、有為(うい)中を襲う。

 直後、周辺一帯の木々が養分を吸われ朽ちてしまうと滅者(めつしゃ)によって解き放たれたこの世界の生みの親が二人の前に姿を現す。


「わっ! 眩しい!!」


御爛然(ごらんぜん)とは規模も運用方法もまるで違う。火だけで未開(みかい)全土を照らしているのか」


 二人の前に姿を現した万物(ばんぶつ)(もう)()の風貌は成人程度のやせ形体型。

 真っ黒な髪色に深海魚のような、それでいて死んだ魚のような目。

 服装は和装で顔には『識』と書かれた正方形の紙切れがはっつけられていた。


 そんな彼には御爛然(ごらんぜん)が持つ「地」「水」「火」「風」「空」の(マナ)全てが備わっている。

 目算でも御爛然(ごらんぜん)最強と謳われた先代以上の熟練度だと本能的に直感した御影(みかげ)は「このまま養分を吸わせ続けるのはまずい」と呟くと一瞬にして懐に潜り(マナ)を断つべく攻撃を仕掛ける。


「ここで時間を稼ぐ! 靄切(もやき)りかまいたち!!」


「私だって!」


 御影(みかげ)に続いて召喚した矢を打ち放った少女も照準を合わせる際に彼と目が合ってしまい、その際に魔獣以上のおどろおどろしさを感じ気圧されてしまう。


 しかし二人の反応とは裏腹に攻撃は直撃した。

 いや、正確には彼を中心に旋回する見えざる竜巻によって防がれていた。

 故に(マナ)を封殺すること叶わず、万物(ばんぶつ)(もう)()は炎を追い風で押し出すと正面一帯は熱風によって飲まれてしまう。


(まだ木々(しかく)は存在する。俺は大丈夫だが露零(ろあ)は……)


 ――――発砲音が響き渡る。

 直後、敵が生み出した未開(みかい)中を照らすほどの疑似太陽に引けを取らない閃光によってできた木の影から出てきた御影(みかげ)は軽い火傷を負っていた。

 しかし同じく直線状にいた露零(ろあ)の身を案じた彼は火傷箇所を押さえながら目を向けると、そこには人の倍以上はあると思われる大きな氷の結晶がポツンと落ちていた。


(あれは何だ?)


 ――――ボッ!


「けほっ、げほっ」


 露零(ろあ)は熱風に飲まれる直前で自身に矢を押し当てていた。

 少女の扱う特殊な矢は冷気を纏っている以外にもう一つ特徴がある。

 それは矢が貫通し、消え失せるという点だ。

 故にこれまでは主に足止めとして用いていたが、パートナーが変わったことで新たな可能性を見出した少女はこの土壇場で披露した。


 だが実際に体験したことでいくつかの問題点にも少女は気付いた。

 それは自身が凍り付いている場合に限り呼吸が止まるという点だ。

 一概には言えないが運動能力が乏しく、肺活量の少ない少女の猶予は『三十秒』といったところだろう。


 しかし心室に居住いた鬼火によって氷解した少女の目前には左手に『炎』、右手に小さな『竜巻』を出現させた万物(ばんぶつ)(もう)()が迫っていた。

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