第四章40話『下剋上等』
そうして野良との面会を終えた科厄は次に入れ替わりでログハウス内に入ってきた滅者達と卓を囲んでいた。
その顔触れは『トップ』と呼ばれる人物を始め、死懍、そして朔夜の三人だ。
理由は対等な立ち位置にいるメンバーで今後の方針を共有するためだ。
話は野良、滅者双方を取り纏めるトップと呼ばれる人物が率先して行う。
「宝玉が揃えばすぐにでも万物の申し子の復活に移りたい。できるか?」
「再現も済んだことだしもう手筈は整えてあるんだよね」
「仕事が早くて助かる。その後、お前達には別件で先駆けて動いて欲しい。故にこれから話すのはその先についてだ」
「喪腐先を待たなくてよかったのか?」
「後で話す」
そう言って彼が卓上に置いたのは一丁のリボルバー銃だった。
その拳銃からはおどろおどろしいオーラが溢れ出ていて、それが厄物だと瞬時に理解した他の面々は置かれた銃から距離を取る。
しかし置いた張本人は微動だにせず、彼はそれを御爛然が討伐した魔獣、キメラの戦利品だと告げる。
「戦利品ってことはそれじゃあ…」
「ああ、これには全弾、計六発が装填してあった。野良にはとても話せないが俺たちがこれから狙うのは神と呼ばれる連中だ」
「あいつらの境遇を考えればそりゃ…な。だから魔砂も末っ子ムーブを止めたんだろ?」
「……そうかもしれないな。ここからが本題だ、心して聞け」
トップの声色が変わったのをこの場にいる全員が理解した。
彼が皆に伝えた計画はまず、この世界を創ったとされる『万物の申し子』と御爛然を潰し合わせること。
望ましいのは御爛然の勝利によって万物の申し子と彼が創ったとされる古代樹の撤去を同時に行うことだ。
万が一、臨んだ結果にならなければ滅者が出ることになると話すトップだが例えそうなったとしても相当消耗しているはずだと彼は考えていて、算出した勝率の高さを伝える。
だがさらにその後の展開を見越している彼は御爛然が戦闘している間に各國に出向き、バイオテロを引き起こす準備を水面下に進めることこそ重要だと考えていて折を見て内部分裂、ひいては同士討ちさせることで休む間も与えず攻め立てるということだった。
「古代樹共々亡くなってくれるなら俺達にとっては様々だが奴らの動きが読めない以上、邪魔立てされたら他の計画に狂いが出るがどう考えている?」
「なになに? 私の腕が信用できないって言いたいわけ?」
「そうだ。内容も聞かされていないのにそんな得体の知れないものに俺たちの命運を託すべきじゃない」
「あームカつく! 言わせておけば――」
仲裁役を一身に引き受けていた喪腐の不在に代わって一触触発ムードを感じ取ったトップが二人の間に割って入る。
そして自身が口止めしているのだと詳細について副長が語らない理由を説明すると二人の仲を取り持ちつつ彼は今一度全員に問う。
「この作戦の担保は俺の命だ。死懍だけじゃない、命を擲つのが怖いならここで降りても誰も咎めはしない」
「はぁ…俺が降りると言っても今更止めにはならないのだろう? それにその行動が俺のためでもあるなら致し方ない」
神殺しという大それたことを最終目標に掲げるだけあり、トップはすでにリスクを承知で行動していた。
だが部下もそうとは限らない。
作戦途中で心変わりすることも大いにあり得ると考えた彼はこの場にいる部下全員の気持ちに変化がないか問う。
そんな彼の問いに最初は揺らいでいた死懍も覚悟、そして決意を固めると運命を共にする意思を今この場で宣言する。
「全員の同意も得たことだし方針はそれでいいとして、トップの懸念は御爛然側にもあったよね。そっちはどうなったわけ?」
そう、彼の懸念はなにも標的である神と呼ばれる者だけではなかった。
御爛然側に与し、彼らの治める國に身を置く『里』なる人物も彼の警戒者リストに含まれている。
副長はそんな男性婦人について何一つ言及しないトップに違和感を感じ、つい疑問を口にした。
すると彼の様子は一変し、自身が指される側の詰将棋をしている気分だと告げるとその人物が『心不全』であり心音から本心を読み解くことは難しいと珍しく弱気な発言をする。
「天敵…か。なら早めに始末しておくか?」
「ダメだ。あれを手にかければ全方位からヘイトを買うことになる。各地に散りばめられた猛獣の枷を外すのが俺たちであってはならないことは皆理解しているだろう?」
「なら俺が記憶を焼きゃあ済むんじゃねぇか? それに常に背中を狙われてりゃこっちの作戦に支障をきたすだろ?」
話を聞いた上での朔夜の発言に心底呆れ果てる他の三人。
そんな彼に呆れた様子で諭す死懍は関わることでかえって状況が悪化するのだと言い聞かせ、触らぬ神に祟りなしだと告げる。
朔夜はそんな彼の言い分をまるで呪いのようにこの世を去った後に訪れる、良からぬ何かしらだと若干ズレた解釈ではあるものの理解するとそれ以上は何も言わなかった。




