第二章46話『敗北の先に』
「……いっ」
大爆発の後、露零は倒れてきた木に足を挟まれていた。
隣には腕を打ち抜いたことによって出血している御影が木を避けて倒れていて、自力での脱出がほとんど絶望的な少女の位置から死懔の姿は確認できなかった。
(痛い…早く何とかしなくちゃ)
木の下敷き状態から一刻も早く脱出するべく、少女は思考をフル回転させる。
少しでも身をよじると痛みが激増しするためこれは却下。
倒木を持ち上げようと手で押してみるも、全く動く気配がないのでこれも却下。
そんな少女は初めて風月に訪れた際の出来事を思い出す。
(そうだ! あのとき南風さん、重たい岩を軽石で動かしたって言ってたんだよ!!)
過去の会話を思い出し、活路を見出した少女は懐を弄る。
そして取り出した軽石を近くに置いて再び倒木を押してみる。
すると今度は材質が変わったように簡単に押し動かすことができ、少女は無事倒木からの脱出を果たす。
そして立ち上がろうとする少女の足は酷く青ざめていて、とても動けるような状態ではなかった。
――いや、そのはずだった。
少女が腰元に着けていた面には木に足を挟まれた段階ですでに亀裂が入っていて、脱出を果たしたタイミングで完全に真っ二つに割れたのだった。
(そういえばお店の人が言ってた。このお面は顔に着けられないけど別の使い道があるって)
何の因果かシエナの先輩にあたる人物も狐と人間のハーフだったという。
そして今割れたお面も狐面だ。
圧迫されたことで片足は青っぽい色に変色してしまっているが、怪我の具合は全くと言っていいほどなかった。
痛みは感じないし、恐らく走り回ることも可能だろう。
願掛けをしたわけではないが怪我の肩代わりをしてくれたのだろう面の欠片を回収すると露零は御影のもとへ急いで駆け寄る。
――――もちろん周囲への警戒は怠らずに。
御影の容態は重体といえるものだった。
足を貫通していた釘は爆発の衝撃抜けているものの、理知的な容姿に反してバリバリの武闘派だった死懔にタコ殴りにされていたのだ。
とは言っても御影は乱打を防御していたし、終始やられっぱなしというわけではなかった。
しかし押されていたのは明らかに風月側で、そのダメージは前衛だった彼が一身に受けていた。
外傷だけでも相当酷い怪我の具合だが少女に医療知識は一切ない。
それこそ応急処置という単語すら知らないような子だ。
そんな少女が怪我人を前に困り果てていると、ある人物が二人の頭上を飛び越えて現れる。
「――いたでござる!」
その人物は道中別れた南風だった。
彼女は人並み外れた跳躍で倒木の上から二人の捜索を行っていて、探し人を発見した彼女は心紬の名を呼び二人の位置を知らせる。
そのまま南風は二人のもとに降り立ち、少し遅れて心紬が到着すると少女は早速彼女に容態を診てもらうよう懇願する。
「心紬お姉ちゃんどうしよう、助けてあげて」
「わかりましたから落ち着いてください」
その後、容態を確認した心紬は早速処置を始め、彼女が処置を施している間、残りの南風、露零は互いに状況を共有する。
「――拙者達はあの二人に逃げられたんでござるよ。露零殿の方はどうなったでござるか」
「それが…御影さんに渡した宝玉が取られちゃったの」
「御影殿……」
そう言って南風は御影に目を向ける。
彼女と御影はどのような関係性なのだろうか。
しかしこんな状況ではそんなことを聞く気にもなれず、少女は「でも私は何ともないんだよ?」と言って立ち上がる。
すると立ち上がったことで片足の変色部分を見られてしまい、南風は青ざめながら心紬を呼ぶ。
「はえっ! 拙者生々しいのは苦手なんでござるよ。心紬殿ー!」
「ええっ?! こっちも忙しいんですよ。ちょっと待ってくださいってば」
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その一方で夜霧では、事が落ち着くまで地下に身を潜めていたミストラが地上に出ていた。
彼は全焼し、焼け落ちた夜霧の残骸を拾うと哀愁漂う表情で長年苦楽を共にした城を弔い次の行動に移る。
跳躍し、塀の外を一望すると塀を取り囲んでいた野良の姿は完全になくなっていた。
彼女らもまた、折を見て撤退していた。
夜霧の全焼で目的達成と考えたのだろう野良は他の戦線メンバーよりも一足早く撤退していて、地下の存在には一切気付いていなかった。
そのお陰で幸い、仰の墓のある地下まで火の手が回ることはなかったのだが。
(仰、僕は君もそれ以前も忘れない。だけど今の主は御影なんだ。君が造ってくれたこの城だけど、繰り上がりに伴って夜霧は一から作り直すことにするよ)




