表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御爛然  作者: 愛植落柿
第二章『風月』
100/276

第二章45話『生死を分かつ幕引き』

御影みかげさんなんで面を付けないの?!」


 そう叫ぶ露零ろあの腰元には小さな小さな、身に付けるにはあまりにも小さすぎる狐面を下げていた。

 少女は自身が通ってきた道から爆発音が鳴り止まないことに不安そうな表情を見せ一瞬俯くと、目前には二つの影が迫っていた。


「……」


御影みかげ、さん?」


 顔を上げた少女の目前に立っていた人物は黒の狐面を身に付けた人物だった。

 黒の狐面、それを少女はここ一か月の間に目にする機会があった。

 故に目の前に立っているのが御影《みかげ

》だと理解するまでそれほど時間を要さなかった。


 彼の後ろには出血多量の死懔しりんが立っていて、置かれた状況を瞬時に理解した少女は逃げようと後退りする。


 ――スチャ。


 しかしそんな少女の息の根を止めようと、黒い狐面を身に付けた御影みかげは銃を抜く。

 そしてゆっくりと腕を上げて銃身を少女に向けると、彼はなぜかもう一方の手を腰元にある銃に添える。

 まだ御影みかげとしての意識が僅かにでも残っているのだろうか。


 ただ、少女は向けられた銃を前に(迂闊なことは言えない)と考え、何も言葉を発さなかった。

 しかし次の瞬間、御影みかげのとったある行動に少女は「だめ!!」と声を上げて思わず駆け寄る。


 直後、発砲音が鳴り響き、血飛沫ちしぶきはなぜか御影みかげから噴水の如く飛び散り、少女は彼の返り血を浴びる。

 この時、御影みかげは自決しようと添えた手で銃身を自身の方へ向けていた。

 そして心臓付近に銃身を持ってくると彼が引き金を引く瞬間、少女は声を上げて彼の方へ走り出していた。


「――がっ!!」


 遅れて死懔しりんの叫び声も聞こえ、少女は恐る恐る目前の御影みかげを見る。

 すると彼の放った銃弾は心臓からは外れていたものの、腕を貫通して発射されていた。

 そしてその弾丸は何の偶然か背後に立っていた死懔しりんの腕にも貫通していたのだ。


 少女に覆いかぶさる様によろめき体制を崩す御影みかげと着弾個所を押さえ、悶えながら膝をつく不運な男、死懔しりん


 少女が御影みかげを避けて死懔しりんを見ると、彼にはまだ辛うじて意識があった。


 流れ弾に当たった彼は必死に回復に努めているように見え、少女は遠くから彼目掛けて矢を放つ。

 しかし彼は目を見開き何やら呟くと突如、周辺の木々の根元部分が一斉に大爆発を始め、連鎖倒壊のように次々と倒れてくる木々に三人は成す術もなく埋もれてしまう。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「っ!? 露零ろあ、向こうでは一体何が…」


 そう呟いたのは『砂漠の悪魔』なる人物を切り伏せた心紬みつだった。

 彼女は南風はえが言葉を綴るまでの時間を稼ぎ切り、そして南風はえの即席で綴った言葉によって一瞬硬直した彼を切り伏せていた。

 砂埃が舞うほどの大爆発、そして倒壊音が聞こえたのはその直後の出来事だった。


(……あれは撤退の合図、目的は達成したのか?)


 そう考えるは身を潜め、回復に努めていた駐屯兵長なる人物で、合図に彼は目前で倒れる『砂漠の悪魔』を回収して逃げる方に思考を切り替えていた。

 彼は仲間の滅者(めつしゃ)が前衛に立って奮起している間、おはじき型で粘着質の爆弾を手で弾き飛ばし周辺の木々や地面に付着させていた。


 こちらも仕込み終わった爆弾を起爆させればいつでも戦線離脱することができる状況。

 ただ、問題は二人が回収対象から離れないことだった。

 いくら爆破で場を乱すと言えど、下手をすれば味方にも被害を出しかねない。


 そんなこんなで頭を悩ませていると背後から肩をつつかれ、バッと振り返った駐屯兵長はその人物が南風はえであることにお化けでも見たような声を上げる。


「――うるさいでござる。貴殿らは拘束できないんでござるよな? 実は極秘で『未開みかい』に拘留施設を建てたんでござるが一緒に来るでござるか?」


 穏やかな表情とは裏腹に、高圧的な口調で詰め寄る南風はえ

 彼女の問いに冷や汗を浮かべる駐屯兵長は沈黙を貫いていた。

 一日で弾かれるという地質を利用した脱出ができないと分かっている以上、安易に頷くことはできない。

 そんな駐屯兵長の扱いに、早くも困った南風はえは次に心紬みつに彼をどうするべきか尋ねる。


心紬みつ殿~。夜霧よぎりは今頃全焼しているはずでござるしどうするでござるか?」


「そうですね。隊舎なら一時的な拘束はできると思いま――」


 次の瞬間、彼ら彼女らのいる近辺は突如一斉に大爆発を起こし、四人は爆風によって四方向に吹き飛ばされる。


 この時、南風はえは不意打ちにもかかわらず、高い身体能力で受け身を取っていた。

 しかし他の三人は受け身もままならないまま進路上にある木に全身を強打する。


 爆破させたのは駐屯兵長ではなかった。

 むしろ彼は木に接触した直後に(誰が爆破したんだ?)と疑問符を浮かべ、しかし四方向にばらけたことで回収しやすくなった仲間を背負うとそのまま彼らはどさくさに紛れてしれっと戦線離脱を果たす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ