弄ってみた
「ふぅ、すっきりした」
目の前には鎧を変形させて顔面を腫らし白目をむいて倒れているルクスがいる。
その傍には二つに折れた杖。
斥候の女と僧侶の女は全身に汗を滲ませ、浅い呼吸を繰り返しており、全員これ以上の戦闘が不可能なのは明らかだ。
『しょ、勝者ガリオン!!!』
審判の判断で決闘が締めくくられる。その場には『栄光の剣』に与する冒険者数十名が倒れており、無事なのは対戦相手の俺だけだったからだ。
「うん?」
観客席からまばらに拍手が上がっている。
あまりに一方的な戦いだったので盛り上がらなかったのだろうか?
俺はそんな風に思いながら、控え場所へと戻ると……。
「おう、約束通り勝ってきたぞ」
テレサに話し掛けた。
彼女も、途中の段階で不安そうな表情を浮かべていたので、これだけ完勝すれば文句もないだろう。
それどころか、決闘前は自ら俺の頬に口付けをしてきたくらいなので、あまりの格好良さに落ちていてもおかしくない。
今すぐ駆け寄ってきて涙目で『心配したんですよ』と上目遣いをみせ、今度は唇を重ねにくるのではないかと妄想する。
俺が両手を広げて待っていると……。
『変態』
空中に文字が書かれた。
「ここは、見事姫を守り抜いた騎士に御褒美を与える場面じゃないのか?」
物語で一番の見せ場ではないか?
俺は予想外のテレサの反応に困惑した。
彼女は首を激しく横に振ると、ルクスを見るような――、いやそれ以下の視線を俺に向けてきた。
『ま、魔法使いプレイなんて……あんな、よくもっ! 身の危険を感じるので近寄らないで下さい』
俺は倒れているルクスたちをみる。身体をビクンビクンと震わせているのだが、噂に聞く魔法使いプレイとはどんなものか、少しやつらに試して見たのだ。
「なるほど、テレサも興味があるわけか」
俺はフッと笑って見せると、彼女に生暖かい視線を送った。
『ど、どうしてそうなるのです! あんな鬼畜な所業。ガリオン頭おかしいですよ!?』
動揺したのか、顔を真っ赤にしながら文字を書き連ねている。
その隙に、俺はテレサに接近し彼女の肩に手を乗せる。
「安心しろ。ああいうのはまだお前さんには早いからな」
目を大きく見開いて口をパクパクさせている。頭の中では先程の場面を自分に置き換えて想像してしまっているのだろう。
観客がまばらになり、倒れている連中が徐々に意識を取り戻し始めたのを見た俺は、隣で抗議するテレサの文字を見ながら、彼女を連れてその場を後にするのだった。




