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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
4話 夏に涼し

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12 清水家の朝食

皆で食べる朝食の席では、昨夜の話を聞いた住職が楽しそうにしていた。


「なるほど、橘君は幽霊を見たか! 久しぶりに出たな、いや目出度い!」


郁也にはなにが目出度いのか分からないが、住職的には目出度いことのようだ。


「えぇ~!? なんでよぅ、橘くんとアタシに、なんの違いがあるのぉ~!?」


一方の崎山は、悔しそうに箸の先をガジガジしている。


 ――いや、俺も崎山先輩に譲ってやりたかったし。


 郁也としては、幽霊を見たことを羨ましがられても、ちっとも嬉しくない。

 そんな中、ポン助は≪がんもどきをもっと食べて~≫などと言ってくるが、郁也に人様の家のがんもどきを独り占めしろとでもいうのか?

 確かにがんもどきは美味しいけれども。

 というか、郁也はがんもどきというものを初めて食べた。

 サクッとした歯触りが美味しくて、スーパーの豆腐コーナーを通る際にみかけるがんもどきとは、だいぶイメージが違う。

 聞いたところこの違いは、「揚げ立てだから」だそうだ。

 ちなみに朝食を作ったのは住職である。


「普段はウチも他の家と変わらない食事なんだけどね、久しぶりのお客さんだから張り切って精進料理にしたよ」


そう言って笑っている住職であるが、まるでどこぞの料亭で出されるような豪勢なメニューが出てきて、郁也は恐縮しきりである。

 住職はなんでも大きなお寺での修業時代に料理も修行だったそうで、美味しいかどうかは置いておくとして、一通りの料理が出来るそうだ。

 祖母が清水の母は料理が苦手な人だと言っていたが、この家での食事作りは住職がやっているようだ。


「先生も、料理は修行なんですか?」


「もちろん、僕も学生時代の寮生活でやりましたね」


郁也の疑問に答える清水曰く、彼はお寺の大学に進学して、勉学と修行の両方を同時進行したという。

 なるほど、お坊さんになる道も色々であるようだ。

 住職は現在はお坊さんとしての仕事や色々な雑事もあるので、どうしてもお供え物などを檀家の人たちの善意に頼っているという。

 ということは、清水にとっての家庭の味は「父の味」ということか。

 郁也はなんとなく料理というと「お母さん」というイメージがあったが、そうじゃないということが目の前で見ると実感できる。


 ――こういうのも、人それぞれなんだなぁ。


 郁也もかつて一人でご飯を食べていた時に、料理をしてみればよかったのではないか? と今になって思う。

 料理をやろうという気持ちにならなかったのが、なんだかもったいない。

 しかしあの時は生活の雑多な事に追われて、そんな余計な事をする気力がなかったのだ。

 けれど、将来のために料理の練習をするのもいいかもしれない。

 家に帰ったら祖母に言ってみようと、郁也は心のメモに留めた。

 そしてポン助があまりにうるさいので、がんもどきを数回お代わりしたら、「がんもどきが好きなのねぇ」と清水の母に言われてしまった。

 確かにがんもどきは美味しいし好きな味だけれど、なんとなく釈然としない。

 食いしん坊なのはポン助であって、郁也ではないと主張したくなってくる。



そんな色々あった朝食の後は、「せっかく寺に泊まったのだから」ということで、朝のお勤め体験である。

 読経をするのは、住職ではなくて清水だ。


 ――先生、いい声をしているんだなぁ。


 普段はそう意識することはないのだが、読経のように長々と声を聞いていると、耳心地の良い声であることがわかる。

 そして耳心地が良いということは、ぶっちゃけ眠い。

 郁也は早起きしたこともあり、睡魔と戦っていた。


≪スピィ~≫


穏やかな寝息をたてているポン助のことを羨ましく思っていると、何故か寝息が二つ聞こえてくる。


「スピスピ~」


気が付けば、隣の崎山から寝息が聞こえてきていた。


 ――ズルい、先輩ズルい!


 先に寝られたら、郁也が寝るわけにはいかなくなるではないか。

 そんなわけで郁也は腕や足をつねったり、目を開けっぱなしにしたりして、懸命に起きてやり過ごしたのだった。

 その後、居眠りした崎山には廊下の雑巾がけの罰が待っていたりするのだが。

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