11 お風呂はいいもの
それにしても家の風呂とは違う湯の感触が不思議だ。
この不思議なのが、温泉成分なのだろうか?
そんなことを考えながらお湯をパシャパシャさせている郁也に、清水が説明する。
「この風呂場を造ったのは祖父でしてね、村の人たちを動員してこんな風に造ったというわけです」
なんでも、温泉は昔から湧いていたらしいが、昔はこんなに立派な風呂場ではなく、温かい池のようなものだったという。
それを温泉好きの祖父が「温泉っぽくしたい!」と言い出して、このようになったそうだ。
なのでこの風呂場は造った村の人たちのものでもあるということで、村の人たちが寺での集まりの際に風呂に入って帰るのはよくあることなのだそうだ。
村の皆で造ったから、皆の温泉というわけらしい。
ちなみに、この温泉を目当てに崎山の家族は昔からちょくちょく訪ねてきているのだという。
そしてそのままオカルトの世界にハマってしまったというわけだ。
それにしても、こうして自由に入れる温泉があるという事は、だ。
「ならじいちゃんも俺のために、わざわざ山向こうの温泉なんて行かなくてよかったんですね」
郁也はそう呟く。
もしかして、まだ土地に慣れない郁也のためにわざわざ遠出をしたのかと、申し訳なく思っていると、清水が「遠慮しぃな子ですねぇ」と言ってくる。
「それは温泉ついでに、橘君を遊ばせてやろうと考えたんじゃあないですか?
孫にいい格好をしようとするのが、祖父母というものですよ」
言われた郁也は、祖父と行った温泉道中を思い出す。
「……確かに、土産屋とかをブラブラしました」
祖父は「この温泉饅頭を食べないとモグリだ」と言ったり、「卓球勝負にゃあまだ負けん!」と言ったり、色々やった覚えはある。
「それに橘君が生活に慣れてから、ご近所さんと裸の付き合いをさせようと考えていたのではないですかね?」
「そうかもです」
郁也が人付き合いが苦手であることを良く知っている祖父母だから、そのあたりを気遣ってくれたのだろう。
祖父母の優しさを再発見したところで、身体を洗ってシーツも洗って、長湯にならない程度の時間で上がった。
シーツも脱水をかけてから干せば、ミッションクリアだ。
「いいお風呂でした」
「でしょう? 我が家自慢の風呂ですから」
郁也と清水はそう話しながら部屋に戻って行った。
その後の風呂場では。
「せっかく温めた風呂に先に入られたが、まあよいか。
それにしても、子孫もいいものを造ったものよ」
そう独り言ちながら、年に数日楽しめる温泉をひっそり楽しんでいる清水家のご先祖様がいたことは、誰にも気づかれていなかった。
それから日が昇ってから郁也がシーツを干していると、清水の母に出くわした。
「快斗くんが橘君のことを『疲れてもう寝た』って言うから、心配したのよぉ?」
「ご心配をおかけしまして、軟弱なものですから」
清水の母が気遣ってくるのに、郁也は自分の体格では少々苦しい言い訳をする。
シーツを洗って干したことも、「汗臭いのが申し訳なくて」という理由にしておいたが、どう思われたのかは謎だ。
「まあ、男の子って色々あるから、気にしないで」
清水の母にそうフォローみたいなことを言われたのが、逆にいたたまれない気持ちになる。
「怪しい行動ね、快斗くんと二人して、なんかコソコソしちゃってぇ♪」
シーツの件を聞きつけた崎山がなにやらニヤニヤしているのが、怖くもありウザくもあったりした。




