9 夢の中でお説教
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郁也は気が付くと寝ていて、ポン助が綺麗なお座り姿で正面にいた。
キリッとした顔なポン助は、もしかすると人間風に言うところの正座状態なのかもしれない。
というか、ポン助がいるということは、ここは夢の中なのだろうか?
「あれ、じゃあ肝試しはどうなったんだ? 崎山先輩は?」
「そんなこと、ボクがしるわけないじゃん!」
とりあえず起き上がった郁也の、別にポン助に尋ねたわけではない独り言に、ポン助が言い返してきた。
どうやら怒っているようで、「まったくもう、まったくもう!」と言いながら鼻息が荒く、尻尾をビッタンビッタンしている。
「どうしたんだ? 腹減ったのか?」
郁也は怪訝そうにポン助に尋ねた。
一応肝試し前に夕食を食べたのだが、ポン助的には不満な量だったのかもしれない。
そんな風に考える郁也に、ポン助が「ちがぁう!」と叫ぶ。
「そうじゃないでしょ、もう!
なんでいつもいつも、あんなコワいのに近付いちゃうの!?
ボクなんて簡単に滅されちゃうんだよ!?
君子危うきに近寄らずなんだからね!?」
ポン助がふとい尻尾をふり回しながら、プリプリ怒っていた。
「コワいのって……」
「あの祠にいたヤツのことじゃん、も~う!」
ポン助の言わんとすることを察せないでいる郁也に、「このニブちんがぁ~!」という感じで叫ぶ。
このポン助の勢いに、郁也はタジタジと後ずさる。
「だって……」
「行くなって言っても聞かないでズンズン行っちゃうし、会話しちゃうし!
どうかしているよ全くも~う!」
郁也がなにか話そうとしたのに被せるようにポン助が文句をたれ流し、とうとう全身で床にビッタンビッタンし始めた。
――『行くな』とか言われたかな?
郁也は憶えがないものの、途中で妙にポン助の声が遠くなった時があったので、その時のことなのかもしれない。
それでも、なにか反論しないといけないと思った郁也は、なんとか言い訳を絞り出す。
「普通の人だと思ったんだよ」
「キミ、ニブいんじゃない!?」
しかしポン助にそうバッサリと斬り捨てられた。
ポンコツポン助にニブいとか言われるのは腹が立つが、反論できないのが辛い。
「もう、もっと危機感持ってよね!
僕が滅されちゃうと、キミも死んじゃうんだからね!?」
そう言うポン助にギロッと睨まれるものの、郁也はタヌキに睨まれても怖くはないどころか、ちょっと和む。
けれどそれを口に出してはいけないことくらいはわかるつもりだ。
それに郁也だって死にたくはない。
「わ、わかった、気を付ける」
とりあえずコクコクと頷く郁也に、「そうするように!」とポン助が偉そうに頷くと、ビッタン姿から元のお座り姿に戻る。
「君子危うきに近寄らず! ハイ、復唱!」
「……君子危うきに近寄らず」
ポン助とこれを三回繰り返したところで、郁也は意識が薄れて、夢の中からフェードアウトした。
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現実では。
「ムキュムキュゥ……」
タヌキな郁也の口からそんなタヌキ語での寝言が漏れていた。
本人は、「君子危うきに近寄らず」と言っているつもりである。
そう、郁也はあれからタヌキのまま寝てしまっているのだ。
「タヌキも寝言を言うんですねぇ」
それを傍らに寝転がる清水に観察されて聞かれていたとは、思いもせずに。
――う~ん、なんか暑い、エアコンが壊れたのかなぁ?
その暑さが、抱き枕よろしく清水に抱えられているせいだとは、考えもしない。
そしてやがて、起きたタヌキの「キョェ~!」という叫びが寺に響くのだった。




