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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
4話 夏に涼し

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7 祠にて

祠の前に誰かいることに、郁也はビクッとする。


 ――え、誰!?


 祠に人を立たせているなんて話を聞いていなかった郁也は、思わず足を止めた。


「なんだなんだ、そんな所で止まらずに早く来い」


するとその人影が、郁也に向かってそんなことを言ってくる。

 その人影は、よくよく見ると作務衣を着た男だった。

 もじゃもじゃの髭面の厳めしい見た目で、郁也からするとちょっと怖くて近寄りがたい。

 こんな時に祠にいるということは、もしかして住職に頼まれてここにいる下の集落の誰かだろうか?

 郁也はまだ集落の全員の顔を覚えたわけではないので、知らない人がいても不思議ではないのだ。


 ――そうだよな、夜の山なんて危ないから、見張りみたいな人がいるよな。


 郁也はそう考えてちょっとホッとして、若干足を速めつつ祠へ向かう。


≪ぶ……ぶふ……!≫


ポン助がなにか喚いている気がするが、まるでスマホの電波が悪いみたいに声が聞き取り辛い。

 郁也は一体どうしたのか? と不思議に思うも、「うるさくなくていいか」とあまり気にせずにいる。


「今年も来たな? それにいつもと違う顔だ」


そんなことを言う祠の見張りの男は、厳めしい顔をニヤリとさせて、楽しそうにこちらを見てきた。


「ふむ? だがしかし妙なことだ、これは……」


なんだかブツブツ言っているが、郁也は早くこの肝試しを終わりたいから、早く木札が欲しいのだ。


「どうも、あの、ご苦労様です。

 あの、木札を、ください」


木札を催促する郁也は初対面を相手に緊張して、またもや言葉が上手く出ない。

 そんな郁也に、見張りの男は目を丸くした。


「ほ? もしかして話しかけたのか?

 また今年のはおかしなのが来たな」


不思議そうにする見張りの男に、郁也は首を傾げる。


 ――なんだろう、喋りかけたらいけないルールだったとか?


 しかしそんな事前説明は受けていないし、説明漏れがあったのかもしれない。

 そもそもここに人がいることも、もしかして聞き逃したのかもしれないし、ルール違反だとかで最初からやり直しだとか言われたらどうしようと、郁也が不安に思っていると。


「ほれ、木札っていうのはアレのことか?」


男がそう言って指差した先に、平らな石があった。

 その石の上に木札が二つある置いてある。


「そうです!」


郁也は木札の一つを手に取ると、これであとは本堂まで下りるだけだ。


「どうも、ご苦労様です」


最後に自分たち二人のためだけにこんな時間にここにいる見張りの男に、郁也はペコリと頭を下げる。


「お前さんは、なんぞ不自由をしていないか?」


すると、見張りの男が、そんなことを尋ねてきた。

 これに郁也は「なんのことだろう?」と首を捻る。


 ――ああ、俺の噂を聞いて心配してくれているのかも。


 郁也はよく近所のおじいさんやおばあさんから、「なんぞ困ったことがあったら、すぐに言いなさいね」とよく声をかけられているので、この人もそれだろうと考えた。


「特に困ったことはないです。

 じいちゃんとばあちゃんは良くしてくれますし、集落の皆も優しいです」


郁也が緊張で強張った顔の筋肉を動かし、笑顔を作ってそう告げると、「そうか?」と見張りの男は首を捻る。


「困っとらんのならばいいのか?

 まあいいんだろう。

 ほれ、行け行け、また来年来るんだぞ。

 いつもあの小娘ばっかりを見るのも飽きたんでな」


見張りの男がそう言いながらヒラヒラと手を振る。


「では、どうも」


郁也は再び頭を下げて、もと来た道を下っていく。

 それからしばらく歩くと、また気味の悪い鳥の鳴き声が聞こえてきた。


 ――そう言えば、祠のあたりだと聞かなかったな。


 なんでだろうか? と疑問に思うが、本堂の明りが見えてきたためホッとしたことで、そんな疑問なんてすぐに忘れてしまった。

 それに行きの時は気付かなかったが、祠までの道の両側にロープが張られていた。

 道を逸れて迷子にならないためだろう。

 安全対策はしっかりしてあったということか。


(ポン助、思った程怖くなくて済んだな)


≪……≫


肝試しが終わる安心感を共有したくて話しかけるが、何故かポン助が静かだ。

 もしや退屈過ぎて寝てしまったのだろうか? と郁也は考え、気にせずに本当の明りまで一気にかけ下りた。

 まさか、ポン助が脳内で気絶するという器用なことをしているなんて、考えもせずに。

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