6 出発
住職の説法が終われば、いよいよ肝試しのスタートだ。
ホゥ、ホゥ
バサバサッ
キェー!
本堂の外に出ると、山の中の街頭などない暗闇に、鳥の鳴き声だったり羽ばたきだったり、謎の甲高い声だったりの自然の音が響く。
――どうしよう、もう怖い。
郁也は大きめの懐中電灯を持たされているが、その光が余計に闇を濃く見せているように思う。
かといって全く光がないのも怖いのだけれども。
≪こんな遅くに山を歩くなんて、信じられなーい!
巣穴に籠って寝る時間じゃなぁい⁉≫
そんなことをわめくポン助だが、タヌキとは夜行性ではなかったか?
夜行性なのにビビリとは、生存競争に負けそうである。
そんな風にビビリまくりな郁也とポン助の一方で。
「夜の山ってワクワクするね~!」
崎山はテンションMAXのようで、さっきから足ふみが止まらない。
「先輩、怖くないんですか?」
「怖い? なんで?」
郁也の疑問に、崎山から心底不思議そうに聞き返される。
どうやら崎山には「怖い」という単語が備わっていないようだ。
もしくは、郁也と崎山の「怖い」の意味が違うのかもしれない。
こうして対照的な二人の前に、僧衣から着替えた清水が立つ。
「ではこれより肝試しを開催します」
「はぁい!」
「はい……」
清水の開催宣言に、崎山はビシッと片手を上げ、郁也は力なく頷く。
そんな二人の全く違う様子を見て、清水がクスッと笑うのがわかる。
しかし、指をさして笑われないのは安心材料だ。
小学生の頃に大きなガタイで怖がりな郁也を、同級生が囃し立てるようにして馬鹿にしたものである。
「では、ルールを説明します」
そんな郁也の回想をよそに、話は進んでいく。
「橘くんも山の上に祠があるのを知っていますね?
そこにランタンを下げて前に木札を置いてあるので、それを取ってきたら合格です」
「えぇ……」
≪嫌だぁ~!≫
清水の説明を聞いた郁也がちょっと眉をひそめるのと、脳内でポン助が盛大に喚くのが同時だった。
祠とは、あの昔修行に使われていたというアレだろうか?
ポン助曰く「滅されそう」な空気のある場所らしいが、何故にあそこを目的地にしたのだ?
――ランドマークとしてはちょうどいいんだろうけど、怖いから嫌だなぁ。
怖いからこそ肝試しの目的地に選ばれたのだが、郁也は肝試しが少しでも怖くないものになるようにしてほしいので、その気遣いが余計なお世話だった。
「夜の祠って、いかにもなにか出そうでいいよねっ♪」
逆にワクワクが止まらないらしくて楽しそうな崎山のメンタルを、郁也は少し分けてほしいくらいだ。
「今回は特別に、新入りに一番手の栄誉を与えてしんぜよう」
しかも要らぬ提案をされてしまう。
「いや、まずは先輩のお手本を見たいな、とか……」
「さあレッツゴー!」
郁也の抵抗を、しかし崎山は聞こえないのか聞こえないフリをしたのか、ドン! と背中を押してくる。
「橘くん、がんばって♪」
「うむ、修行だぞ!」
住職夫妻も、本堂から応援してくる。
こうなると、もう引けないわけで。
「……いってきます」
≪うわぁん、ホントに行くの⁉≫
悲鳴を上げるタヌキをお供に、郁也は祠を目指して歩き出すのだった。
キェー! キェー!
バサバサッ
「上は見ない、見ないぞ……」
謎の動物の気配がする山の細い道を、郁也は歩いていく。
しかし以前上った時と違って地面が乾いて歩きやすいのは、唯一の良い事であろう。
前回は梅雨の時期でぬかるんで足を取られながら上ったのだ。
それでも急斜面で辛い道のりには違いなく、暗闇に郁也の息遣いがやたらに大きく響いて聞こえる。
その息遣いが、まるで隣に誰かいるような錯覚を起こさせ、たまに立ち止まってキョロキョロして確認してを、何度も繰り返す。
そんな郁也個人としては何時間をかけて上ったように思えて、実のところ数分でしかない時間を乗り越えた先に、やがてランタンの明りが見えてきた。
――あれが祠か。
目的地の祠の明りに、誰か人影が映って見えた。




