5 住職の話
そんな事情はともかくとして。
「橘くん、快斗くんが客間を整えてくれてるから、そこに荷物を置いて来るといいわ」
清水の母がそう言って招き入れてくれたので、郁也は祖父母と訪ねる時と同じようにまず本堂にお参りをしてから、自宅の方へとお邪魔する。
そして案内された客間だという部屋では、僧衣姿の清水が布団を運び込んでいるところだった。
「おや、いらっしゃい。もうそんな時間ですか」
「先生どうも、お邪魔しています」
清水とそう挨拶を交わす郁也だったが、気になることがある。
それは、清水が部屋に運び込んでいる布団が二組あるということだ。
先程聞いた話だと、崎山は姉と一緒に寝るということだったのだが、ではこの布団は一体誰のものなのか?
「あの、布団が二つあるのは、どういう……?」
郁也の疑問を聞いた清水がニコリと笑う。
「ああ、僕のですよ。
今夜はここで寝ようと思いまして」
――はい?
これを聞いた郁也はきょとんとしてしまった。
「……あの、えっと、どうして?」
再び恐る恐る尋ねる郁也に、清水が言うには。
「せっかくのお泊りなのに、独りぼっちなのは寂しいでしょう?」
ということらしい。
――別に、寂しくないんだけどな……。
清水は郁也に気を使ってくれたのかもしれないが、学校の教師と同じ部屋というのは、逆に緊張して寝られないのでは? と思ってしまう。
けれどここで「いえ、一人がいいです」と面と向かって言えない郁也は、内心でため息を吐くに留めるのだった。
そんなこんながあったものの。
とりあえず荷物を置いた郁也は、清水と一緒に居間に行けば、そこではお茶の用意がされていた。
先客として清水の母と崎山ともう一人、男性が座っている。
「やあやあ、よく来たね橘くん!」
そう言ってニコニコしている彼は、寺の住職で清水の父である。
――やっぱり、清水先生にソックリだなぁ。
清水が歳をとったらこうなるのだろう、という想像通りの姿が住職である。
「肝試し参加者が増えて嬉しいねぇ。
説法のしがいがあるよ」
笑いながらそんなことを話す住職曰く、崎山一人だともう慣れてしまって聞き流されてしまい、説法のやり甲斐がないのだそうだ。
「だってぇ、おじさんの説法はもう怖くないんだもの!」
「ちっちゃい頃は、説法の初めの方でワンワン泣いていたのに、全くもって可愛いげがないなぁ」
崎山がプウッと頬を膨らませて文句を言うのに、住職が大げさに嘆いてみせる。
そんな二人の横で、郁也は怖い説法と聞いただけで、もうすでに怖くなってきていた。
≪ねぇ、おはぎを食べようってば!≫
そしてこの空気を全く気にしないポン助は、祖母の持たせたおはぎがお皿に移されているものを所望してくる。
このタヌキだって、きっと説法が始まったらビビりまくるくせに。
(わかった、わかった)
郁也も糖分を摂取して気持ちを落ち着けようと、祖母お手製おはぎを食べるのだった。
それから、あっという間に夜が来た。
夏なので夜の訪れは遅い方なのだが、郁也としてはもっとゆっくり夜になって欲しいと願ったけれども、いつもの時間に暗くなった。
奇跡とはそうそう起きないもののようだ。
そして日が沈んで虫の声が響き始める中で、本堂にて住職の説法が始まる。
これがまた、本当に怖かった。
祖父母とお参りに来た時には、命の尊さとか、日々の感謝を説く内容をしてくれたのだが、今はこの世に未練を残した魂の行く末について説いている。
住職の説法というのがまた、淡々とした口調で話しているのにたまに大きな声を出すものだから、その都度ビクッとなるのだ。
「そして、その魂は……」
≪うわ~ん、そんなことされちゃうの⁉≫
そして案の定、ビビりタヌキのポン助が住職の話にいちいち悲鳴を上げていた。
(ポン助、静かに、もっと怖くなるだろうが!)
郁也はポン助に心の中で文句を言いながら、唇をかみしめて悲鳴を堪える。
隣に座る崎山は、説法に特になんの反応も示さずにボーッとしている。本当に聞きなれてしまって飽きているのだろう。
そして説法を終えた時には、郁也とポン助は息も絶え絶えだ。
「これだよこれ、夏の楽しみってヤツは」
住職は一人(と脳内タヌキ一匹)を怖がらせたことに満足そうにして、説法を終えたのだった。




