4 いよいよ決行日
郁也が学校の先輩と肝試しをすると祖父母に話すと、二人は「懐かしいねぇ」と笑った。
「あたしらはみぃんな、あの寺で肝試しをするのが夏の娯楽だったんだよ」
「そうそう、一人は絶対にユーレイを見るんだよなぁ」
最近は若者が減ったせいで肝試しをする人員が揃わずに、開催がなかったのを寺の住職が寂しがっていたとか、祖父母が話に花を咲かせている。
一方で、郁也は聞き捨てならない言葉を聞いて、衝撃を受けている。
「え、じいちゃん、ユーレイ見ちゃうのか?」
「そうだおぉ? それが肝試しの醍醐味だ」
まるで「畑から芋が採れる」と同じ調子で言う祖父に、郁也は顔色を悪くする。
――マジでユーレイを見るかもしれないとか……。
肝試しが俄然怖くなってきたのだが、今からキャンセルができるだろうか?
≪ひぃん! ユーレイ怖いぃ!≫
脳内でポン助まで怖がって悲鳴を上げているが、化けタヌキがユーレイを怖がるというのもどうなのだろう?
ポン助だって人から怖がられる方の存在だろうに。
そう考えるとちょっとユーレイへの恐怖が和らいだ気がする郁也なのだった。
肝試しの決行は、お盆の二日目夜である。
お盆三日間のスケジュールとしては、まず一日目は祖父母と一緒に夕方にお寺に上がって墓参りをしてご先祖様を迎えに行ってから、自宅へ戻っていつもより五割り増しくらいに豪華に飾られた仏壇に参ると、夜に近所に住む親類などが訪ねてくるのを迎えたりして過ごす。
次に二日目に、いよいよ郁也はお寺に上がって夜に肝試しをしつつお泊りをして、三日目のご先祖様のお見送りのお参りに上がって来た祖父母と一緒に帰る、という感じになっている。
そして現在は二日目の昼食後、肝試し現場であるお寺に出立する時刻であった。
「住職さんが張り切ってっから、楽しむんだぞぉ」
「これ、みんなで食べんさいね」
妙に楽しそうな祖父母に手土産を持たされてから見送られた郁也は、お泊り道具の詰まったリュックを背負って一人、寺へ上る。
≪う~ん、やっぱり山の上の方ってゾワゾワするぅ~≫
徒歩用の細い道をえっちらおっちら上っている郁也をよそに、ポン助がそうボヤいていた。
お寺に行くたびにポン助はゾワゾワを主張する。
初めてお寺に行ったのがあの雨の神様でのアレコレだったので、パニックでそうでもなかったようだが、化けタヌキにとっては寺はあまり居心地のいい場所ではないらしい。
――俺も、一瞬鳥肌が立つんだよなぁ。
これもポン助の影響だろうか?
そんなことを考えていると、視線の先にお寺の屋根が見えてきた。
さらに本堂前に、二人の人影があるのがわかる。
「橘くん、いらっしゃ~い♪」
「いらっしゃい!」
そう言って大きく手を振っているのは、清水の母と崎山だった。
――ああして並ぶと、やっぱり似ているな。
新ためて二人は姉妹なのだと実感した郁也は、彼女たちの前に立つと「どうもお世話になります」と頭を下げる。
「堅苦しいなぁ、もっとテンション上げて行こうよ♪
楽しみだねぇ、肝試し♪」
そんな郁也に、崎山が腕をとってユサユサと揺らす。
「もう、愛ちゃんったら、今日が楽しみすぎて寝れなかったもんねぇ」
そんな崎山の様子を、清水の母がニコニコと見守っている。
「あの、これ、ばあちゃんが持っていけって」
郁也は祖母に持たされた手土産を、清水の母に渡す。
中身はみっちり詰まったおはぎである。
「あら、私はこういうの作るの苦手だから、差し入れなんて嬉しいわ♪
本堂にお供えをした後で、みんなで食べましょうね」
「わぁい、おはぎぃ!」
姉妹で喜んでいることに、持って来た郁也はホッとする。
祖母曰く、数年前までお寺には先代の住職夫妻がいて、そのおばあちゃんが料理上手だったので、お供えものなどには困っていなかったのだそうだ。
しかし先代住職が怪我で足を悪くして山の上での生活が厳しくなったので、夫妻で麓に降りて老人ホームで暮らしているのだという。
残った今の住職の妻も頑張っているのだが、不得手なのはいかんともし難いらしく。
かといって、ここにはすぐに買って来れるような店は、山を下りないとない。
ここは檀家一同で助けてやろうと、みんなで持ち回りで差し入れをするわけだった。




