2 夏休み突入
――マジでやるのか……。
郁也は一人、顔色を悪くしていた。
「愛は本当に、肝試しが好きですねぇ」
やる気満々の崎山に清水の呆れ交じりにそう言うのに、崎山が「えへ♪」と照れる。
「それもあるけどぉ、今年は一緒に肝試しをしてくれるコがいるんだモン!
一人肝試しも楽しいけど、やっぱり誰かと分かち合いたいの!」
崎山がビシッとポーズを決めながら、そんなことを話す。
ちょっと良い事を言ったっぽい雰囲気を出しているが、郁也には気になる点がある。
―― 一人肝試し……?
それは果たして、本当に楽しいのだろうか?
郁也には謎過ぎだった。
「だから、橘くんに楽しんでもらうために、
今年は張り切っちゃうゾ♪」
いや、張り切らないで普通にしてほしいのだが、やはりそうとは口に出して言えない郁也なのだった。
夏休みになると、学校との往復がなくなるので、時間がゆっくりになった気がする。
これまでの習慣が染みついているので、朝に遅寝するようなことはないのだが、学校へ行く準備でバタバタすることもなくなった時間で、朝は祖父について行って畑作業を手伝っていた。
夏は昼間が暑いので、早朝の作業になるらしい。
「郁也ぁ、全部乗せたかぁ?」
「うん、これで全部」
祖父に尋ねられ、郁也はコンテナボックスの確認をする。
夏野菜は葉物が少なく、重たいものばかりになるので、祖父は郁也がコンテナボックスを運ぶことで「楽できる」と喜んでいた。
祖父が喜んでくれることが、郁也には嬉しい。
なにせこれまで、家族に喜ばれることがなかったのだ。
それにしても、キュウリやトマトなどの夏野菜の代表みたいな野菜たちは、地植えだと案外早くに収穫が終わってしまう事にもビックリだった。
お盆前には大体収穫してしまい、秋冬に向けての畑作りに入るのだそうだ。
この収穫物は山のふもとにある直売所で売るのだが、祖父の軽トラックに同乗してこの直売所にも同行する。
直売所には祖父と同じように野菜を持って来たご近所さんがいて、郁也は彼らから「橘さん家はいいなぁ、逞しい男手があって!」と毎回大歓迎されて、誰かしらからジュースをおごってもらえた。
普段怖がられることが多い郁也だが、農家の人たちは見た目はあまり気にしないらしい。
というか、帽子とツナギ姿でいると、不思議と他の農家の皆さんと同化してしまうのだ。
若い農業仲間であるということで、妙に人気者な郁也であった。
直売所から帰ったらダラダラしているとお昼になり、祖父母と三人で昼食を食べる。
郁也はそうめんをおかずにご飯を食べることが多い。
もちろんたんぱく質もきちんと食べているが、身体が炭水化物を欲してしまうのだ。
高校生男子とはとにかくお腹がすく生き物なのである。
≪ボク、その色付きのチュルチュルがいい~♪≫
ポン助は白いそうめんにまじっている色付きの麺がお気に入りのようで、そんなリクエストをしてくる。
色付きそうめんばかりを食べるのは、少々子供じみている気がするが、それをとらないとポン助がずっと騒ぐので仕方ない。
祖父母がニコニコしているのは、「よく食べるな」という意味のニコニコだと思っておくことにした。
お昼からは、学校の課題をこなしたり、オカルト部の課題をこなしたりしていた。
オカルト部の課題というのは、崎山から渡された夏休みの課題図書である。
夏休み明けに、この作品のどこに感動したのかを発表しなければならないようだ。
今手元にあるのは一昔前のホラー漫画で、なかなかに怖い。
この漫画を夜だったり一人の空間で読む勇気が郁也にはなかったので、居間の祖父母の気配がある空間での読書となった。
そして祖父母の方が「懐かしいねぇ」と漫画にハマってしまったのは、別の話だろう。
そんな風に過ごしていると、お盆の時期が迫っていた。




