7 梅雨明け
「よし! 話はついたな! じゃあ帰るぞアメ!」
ヒヨリがそう呼びかけると、子どもはニコリと笑い、尻尾からようやく手をはなしてヒヨリの手を握った。
その瞬間、降り続いていた雨が突然止んだ。
濡れなくなったからか、尻尾が自然とブルっと震えて水気を飛ばす。
その様子を見た子どもが目を「キラーン!」とさせたのだが、ポン助の仕業だろう、尻尾が速攻で仕舞われた。
本気で千切られると思ったのかもしれない。
「お前らにも、なんだか迷惑かけたみたいだな」
ヒヨリがそう言って郁也たちを見る。
「詫びにピッカピカにしてやるから、カンベンな」
そう告げたヒヨリが、突然カッと輝いた。
「うわっ!?」
不意打ちの眩さに、郁也は目が痛くなる。
そしてようやく目が慣れた頃には、この場にあの子どももヒヨリもいなかった。
「なんだったんだ……?」
呆然とする郁也に、清水も目をシパシパさせながら空を見上げた。
「どうやら今、梅雨明けしたようですね」
郁也も見上げると、空はさっきまでの雨雲はどこへ行ったのか、爽やかな快晴が広がってた。
「やはり、橘くんが声をかけたあの子は、雨降り小僧だったのでしょうね」
清水が目をしきりに瞬かせながらそう話す。
「雨降り小僧、ですか?」
そう言って首を捻る郁也に、清水も不思議そうにする。
「おや、橘くんは妖怪が出る漫画などを読んだことがありませんか?」
生憎と郁也はこちらに引っ越してくるまでは家事に追われていたし、漫画の貸し借りができるような友人もいない日々だったのだ。
思い返すと寂しくなって、しょんぼりする郁也に清水は困ったように苦笑する。
「知らないからって生活に困ることはありませんし、そんな顔をしなくてもいいんですよ?
雨降り小僧という妖怪がいるんですが、これが雨の神様の使いという説があるんです」
「そう言えば、ヒヨリくんがあの子のことを『アメ』って呼んでいたような……」
郁也は子供たちのやり取りを思い出しながら、そう告げる。
「おや、そうなのですね。
それにその『ヒヨリ』という子どもは、日和坊でしょう」
そう話す清水曰く、日和坊は日照りの神様で、てるてる坊主のもとらしい。
郁也は清水からのビックリ話を聞き、「あのヒヨリとてるてる坊主はあまり似てないな」と思いつつ、ふと気付いた。
「え、じゃあ、二人とも神様?」
今更その事実が頭に入って来た郁也に、清水が頷く。
「神様の使いと、神様本人ですね」
道理でポン助が怯え気味だったわけだ。
ポン助は郁也に似てビビリだから、神様から「尻尾ちょーだい!」って言われたら、「嫌だ」と拒否できるという自信がなかったのだろう。
尻尾がないタヌキなんて、もうタヌキじゃなくてタレ目のなにか他の生き物だろう。
そんな納得顔の郁也に、清水が己の分析を話してくれた。
「雨降り小僧が帰れなくてこの辺りをずっとウロウロしていたから、なかなか雨が止まなかったわけで。
日和坊のお迎えが、梅雨明けですか。
この二人が仲良くすることで、雨と晴天がいいバランスで保たれているんですかねぇ?」
「はぁ……」
郁也は神様という壮大過ぎる話にはため息しか出ない。
ただ「ピッカピカにしてやる」というヒヨリの言葉通り、空では太陽がサンサンと輝いている。
この調子だと、どこもかしこも雨を含んでじっとり濡れているのが、カラリと乾きそうだ。
きっと祖父母も家中の戸や窓を開けていることだろう。
それは、この山でも同じことらしい。
「橘くんが雨降り小僧を見つけてくれたおかげで梅雨が終わって、ウチの寺も墓地が崩れる危機から逃れられそうです。
まあしばらくは見回りが必要ですがね」
そう言って「やれやれ」という顔をしている清水に、郁也が「よかったですね」と言うと。
「快斗くーん? どこにいるのぉ?」
下の方から声がした。
「呼ばれてますから、下に戻りましょうか。
せっかくなのでお茶でも飲んでいってください」
清水がそう言って坂の下を眺めた。




