1 雨と赤い傘
本日も雨である。
例年ならばもうとっくに梅雨明けしている時期なのだが、未だに梅雨末期のような土砂降りが続いている。
おかげで、祖父母の家から山を徒歩で下りる道の一つが土砂崩れを起こしたりして、生活に支障が出ていたりする。
郁也が通学に使う道は幸い無事なのだが、やはり危険だという話になり。
「今日も雨が酷いですねぇ」
「……そうですね」
運転席の清水に話しかけられ、郁也は相槌を打つ。
そう、郁也は清水の車に同乗させてもらって、通学していた。
本来ならば、教師と生徒があまり近しくなり過ぎるのは、癒着を招くという事でよろしくないのだろう。
だがなにせ、郁也がバスなどの公共交通機関のない山からの通学ということで、「ま、危ないわな」という校長の一言で、清水と一緒の登校を許されている。
郁也にとってありがたいような、余計なお世話なような、微妙な心境であった。
それにしても、本当に雨が止まない。
「僕もこんなに雨が続くのは初めてですね。
ウチの寺でも、特に墓地のあたりが崩れないか心配でなりませんよ」
「ウチも畑が水浸しで、植えていた野菜が全部ダメになったって。
これが地球温暖化ってヤツかって、じいちゃんがボヤいてました」
郁也が清水とそう世間話をしていると、脳内でポン助の「あふぅ」っていうあくびが響く。
≪雨って、毛が湿気って重くなるからキライ~。それに眠いしぃ≫
(オマエはいつでも眠いんだろうが)
郁也はポン助のぼやきにツッコみつつ、信号待ちで窓の外をボーッと見ていると。
「……ん?」
郁也はなんとなく気になる光景に目をひかれた。
清水の車が信号待ちをしている交差点に一人、傘をさして佇む子供がいる。
赤い傘に水色の服なその子は、小学校低学年くらいの男の子だろうか、しょんぼりとした様子であった。
――学校に行きたくないのかな?
小学生だってそんな時があるだろうと、そんな感想を抱いていると信号が青になり、清水の車が発進する。
郁也はなんとなくその男の子のことが気になって、交差点を振り返って見ていると。
「どうかしましたか?」
清水が不思議そうに声をかけてきた。
「いや、さっきのあの子がどうするのかなって思って」
郁也がそう言うと、清水が眉をひそめる。
「子ども? 誰かいましたか?」
「は?」
清水に告げられたことに、郁也は驚く。
――え、だって、あんな目立つ所にいたのに?
あれで見えなかったなんてこと、あるだろうか?
郁也は謎に思いつつ、再び後方の交差点を見た。
けれど、清水の方を見た一瞬の間に、その男の子はいなくなっていた。
もうどこかへ走って行ったのだろうか、なんとも足の速い子である。
清水は信号を注視していて、雨なこともあって視界が良くないこともあり、たまたま見えなかっただけだろう。
そう思うことにしても、郁也はなんとなく気になってしまう。
(なあポン助、あの子ってなんだったんだろうな?)
郁也がポン助に問いかけると。
≪ズピィ~、ズピィ~≫
ポン助は寝ていた。なんとも頼りにならないタヌキである。
その後はすんなりと学校へ着き、普通に学校生活を送ると、あっと言う間に放課後になった。
やはりというか、まだ雨が降っている。
――どうやって暇を潰そうかなぁ?
朝、清水と一緒に登校したため、郁也には帰りの交通手段がない。
清水からはもうじき帰れるから待ってくれと言われていて、ではどうやって待つかを考えているのである。
こういう時間がある時にピッタリであろうオカルト部はというと、部長の崎山がテストの結果が悪くて補習があるらしい。
なんという間の悪さだろうか?
――コンビニにでも行くか。
郁也は学校の近くにコンビニがあることを思い出す。
実は今まで学校の生徒が多いために尻込みして、行ったことがないのだ。
それに昼食は祖母が弁当を作ってくれるし、飲み物は校内の自販機や購買で事足りるので、それを押してまで行く必要性もなかったというのもある。
というわけで、暇つぶしに初コンビニへ行ってみることになった。




